150キロを超える投手が続々登板
筆者が今回、東海二次予選に足を運んだのは、6月17日の「第1代表トーナメント準決勝」だった。第1試合は西濃運輸(大垣市)と王子(春日井市)、第2試合はトヨタ自動車(豊田市)とヤマハ(浜松市)の対戦だった。
第1試合は西濃運輸が9-4で勝ったが、打撃戦でありつつも、投手の「個性」を楽しめる試合だった。
西濃運輸の先発”塩本周平”はプロでも珍しい下手投げで、昨季まで”BCリーグ”の”信濃グランセローズ”に在籍していた27歳。下手投げ特有の「動く」球筋で、球速も130キロ台後半を記録。年齢的にNPBは厳しいのかもしれないが、社会人球界を賑わせそうな人材だった。
王子の先発”九谷瑠”も同じ東海地区の”矢場とんブースターズ”から移籍してきた社会人3年目の右腕。味方の守備に足を引っ張られた部分もあり、4回途中の降板となったが、速球は最速151キロを記録していた。
西濃運輸も3番手”奥誠也”、4番手”庄司魁”がこの試合で150キロ超の速球を投げた。ウエイトトレーニングの進化、様々な想定機材の導入で投手の能力が上がっている昨今だが、私にとって初見の、決して有名投手とはいえない面々が、平気で150キロを超える東海地区のレベルに正直驚いた。

西濃運輸応援団のカルちゃん-大島和人撮影
来年のドラフト上位候補を発見する
第2試合はトヨタ自動車が9回二死から2点差を追いつき、タイブレークで勝ち越す劇的な展開だった。
この試合はトヨタ自動車が大卒2年目の左腕”池村健太郎”、ヤマハは新人右腕”梅田健太郎”が先発。池村はドラフト候補としても名前が挙がっている実戦派で、7回1失点の好投を見せた。
それ以上の「快投」を見せたのが梅田健太郎だ。立正大学時代も筋の良さを感じた本格派だったが、身体が一回り大きくなり(現在の登録は181センチ・90キロ)、単純に球速が上がった。
初回から150キロ超えを連発し、この日の最速は153キロ。カット、フォークに加えて「ナックルカーブ」風の縦変化も有効で、社会人球界最強クラスのトヨタ自動車打線を6回まで零封してみせた。
社会人は2年目以降しかドラフトの指名を受けられず、梅田は新人なのでこの秋のプロ入りはないのだが、「2026年の上位候補」に躍り出たと受け取って間違いない。思わず野球ライターの知人に「梅田が化けました」とダイレクトメッセージを送るほどのインパクトがあった。
トヨタ自動車は9回表二死1・2塁から8番”宮﨑仁斗”がレフトオーバーの同点タイムリー二塁打。タイブレークの10回表にも3点を加え、最終的には5-4で勝利している。
ハイレベルな東海地区で心地よい疲れに包まれる
トヨタ自動車はそのまま「第1代表決定戦」で西濃運輸を9-0と下して第1代表となった。エースの左腕”増居翔太”が満を持して登板し、準決勝とは打って変わって危なげなく快勝した。
21日の「第2代表決定戦」は西濃運輸がヤマハを4-3で下している。22日の第3代表決定戦はHond鈴鹿(鈴鹿市)が、東邦ガス(名古屋市)を5-3で下して本大会行きを決めた。ヤマハは27日(金)の第4代表決定戦も三菱自動車岡崎(岡崎市)敗れて追い込まれたが、28日(土)の第5代表決定戦で東邦ガスに15-1と快勝し「3度目の正直」を果たした。
都市対抗の本大会になると応援はバージョンアップするし、お客も増える。観戦者も空調の効いた東京ドームだから快適だ。ただ、東海二次予選での岡崎レッドダイヤモンドスタジアム特有の味わいも捨てがたい。そこは「ほのぼの感と緊張感」が入り混じった不思議な空間だった。

炎天下の中で応援を続けるヤマハの吹奏楽団-大島和人撮影
繰り返しになるが、東海地区は社会人野球の世界でも恐らくもっともレベルが高いエリア。「ドラフト上位指名クラス」がトヨタ自動車や、ヤマハに加入する例も珍しくない。塩本や九谷のように独立リーグ、クラブチームで腕を磨いて移籍してくる叩き上げの猛者もいる。2試合を見ただけで心地よい疲れに包まれる、内容の濃い1日だった。

主な取材対象はバスケットボール、サッカーだが、野球やラグビーも守備範囲。取材の疲れをスポーツ観戦でいやす重度の観戦中毒でもある。
軽度の「乗り物好き」でもあり、お気に入りの路線バスは奈良交通「八木新宮線」、沖縄バス「名護東線」と今はなき宗谷バス「天北宗谷岬線」など。