WBCで生まれた「勝利」を超えた瞬間
WBC東京Poolは、日本が3戦全勝で1次ラウンドPool Cの首位通過を確定。大谷翔平ら“最強の侍ジャパン”は、大会前から大きな注目を集めて盛り上がった。
一方、WBCの舞台で4大会ぶりに1次ラウンド突破を果たした韓国代表。三つ巴の2位争いを接戦で勝ち抜け、歓喜と涙が交錯した。

先制2点本塁打を放つムン・ボギョン 문보경-Journal-ONE撮影
WBCの勝敗は数字で語られるが、その裏側には、スポーツが持つもう一つの価値がある。Journal-ONEが注目したのは、WBCという巨大な大会の空気の中で生まれた、人と人との小さな交流だった。
WBC韓国vsオーストラリアの試合前。韓国代表のバッティング練習を見守る観客の前で、鋭い打球音が響かせる男がいた。
その選手の名は、ジャマイ・ジョーンズ。デトロイト・タイガースに所属するメジャーリーガーだ。韓国系米国人の母を持つジョーンズは、WBCの舞台に韓国代表として参戦。力強いスイングと、類まれなリーダーシップでファンの視線をさらっていく。
だが、WBCの熱気とは少し異なる“温かさ”が漂い始めたのは、練習が終わった直後だった。

試合前にホワイトフィールドと話すジョーンズ(左)‐Journal-ONE撮影
世紀の一戦直前に起きたメジャーリーガーと少女の「1分間」
バッティング練習が終わったジョーンズは、スタンドで手を振る日本人の女の子を目ざとく見つける。すると、満面の笑顔を見せながら、フェンス際まで歩み寄ってきた。
手には先ほどのバッティング練習で使用したバットと、真新しい純白のバッティンググローブ。私の前まで歩み寄ると、汗をにじませた笑顔で一言を添えた。
「これを、あの女の子に渡して欲しい。」
WBCの、しかも2次ラウンド進出を決する緊張感に包まれた場内で生まれた突然の依頼。私はジョーンズからグローブを受け取り、少女へ手渡した。
少女はグローブを手にした瞬間、目を輝かせ、さらに会場の喧騒に負けないほどの笑顔を浮かべて手を振った。するとその笑顔に応えるようにジョーンズも手を振り返し、ベンチ裏へと姿を消した。1分にも満たない交流だったが、WBCの熱狂の中でひときわ輝く時間となった。

手袋をもらい笑顔の小学生-Journal-ONE撮影
WBCがつないだ「再会」—少女の特別な体験
なぜジョーンズは慌ただしい試合前の準備中にこの少女を見つけたのか。そして、わざわざバッティンググローブを手渡したのか。その理由を母親に聞いた。
少女は小学3年生。前の試合でエスコートキッズに選ばれて入場セレモニーに参加したそうだ。その際、韓国代表のジョーンズと共にグラウンドを歩き、選手たちとハイタッチを交わしたという。
「幸運が重なり、本当に夢のような体験でした。」と母親は語る。別の試合では外野席で観戦し、その際にもジョーンズと短い交流を果たしていた。
さらにこの日は、母娘で手作りの応援うちわとメッセージボードを準備。感謝を伝える思いが丁寧に綴られていた。
WBC会場での再会は、偶然と努力が重なって訪れたものだった。少女は「感無量」と言わんばかりの表情でグローブを眺め続けた。しかし意外にも、野球経験はないという。
母親は「この子には、将来役に立つ経験をたくさんさせたい。」と語る。そのため、スポーツ観戦や旅行など思い出の時間をたくさん作っていると教えてくれた。千葉県柏市に住む二人は、WBC以外にも千葉ジェッツやグリーンロケッツ東葛など、地元スポーツ観戦も日常的に楽しんでいる。

この日もエスコートキッズに笑顔でハイタッチするジョーンズ‐Journal-ONE撮影
WBCが照らした未来—勝敗を超えるスポーツの力
WBCは世界中のファンを魅了する。しかし、第1回大会から東京ドームで1次ラウンドが開催されてきたが、日本戦以外でこれほど観客が詰めかけたのは今大会が初めてだ。
それだけWBCは多様な文化や価値観が混ざり合う“祭典”になったと言える。
韓国代表はWBCの重圧の中、三つ巴の戦いを制し、涙と歓喜が入り混じるドラマを作った。しかしWBCの大舞台で生まれた少女とジョーンズの交流は、別種の感動を生んだ。





















