闇を肯定し、桜にひれ伏す。日々の開花状況に合わせた微調整が守る「光の結晶」

チームラボ《桜の結晶と桜の幽体》2026, Installation, Sound: Hideaki Takahashi © teamLab, courtesy Pace Gallery
植物園の片隅に、まだ熱を帯びた会議室があった。窓の外でトワイライトが深まる。その中で、私たちは一人の男性と向き合っていた。チームラボの赤刎(あかはね)氏だ。現場に到着した私を待っていたのは、心地よい緊張感であった。そして、少しだけ誇らしげな赤刎氏の苦笑いも印象的だった。
実は、この日のプレス会は薄氷を踏むような状況にあった。その原因は、他でもない「桜」そのものである。前日までの冷え込みが嘘のように、急激な暖気が蕾を解いてしまった。その結果、チームラボの計算を、自然の生命力が鮮やかに追い抜いたのだ。さらに、予報では深夜から雨。実現が危ぶまれる空模様の下、会議室には独特の熱気が充満していた。
「代表である猪子のレビューで、名称もコンセプトも土壇場で全て変わりました。チームラボでは日常茶飯事です。しかし、今回は相手が『桜』です。ですから、私たちの都合なんて一切聞いてくれません」
大画面に映る幻想的な光景。それとは対照的に、赤刎氏の言葉にはエンジニアへの揺るぎない信頼があった。それゆえに、現場の泥臭い執念が強く滲んでいたのである。
「昨日」の準備は、「今日」の最高を約束しない
次に、赤刎氏がプレス陣に明かしたのは「自然」という名の巨大な壁だった。「昼間の植物園が完璧でも、桜が咲かないと作品は完成しない。つまり、最後まで見た目がどうなるかわからない。だからこそ、現場での調整がすべてになる」
彼はノートパソコンの画面と格闘するチームの熱量を伝えた。語気を強めて、こう語る。「何日もかけて準備してきた。しかしながら、最良の状態でご覧頂くためには、日々、調整をする必要がある作品なのだ」
取材当日、チームラボのエンジニアたちは桜の枝先に張り付いていた。なぜなら、想定以上のスピードで開花が進んでいたからだ。そのため、プロジェクターの光をミリ単位で追い込み続けた。昨日までの準備を捨ててでも、今日という日に殉じる。日々の開花状況に合わせた調整を敢行する。その誇りこそが、チームラボの仕事なのである。
実体を消し、真実を浮き上がらせる「引き算」の美学
今回の目玉である桜の作品。そこには徹底した「引き算」の美学があった。「通常、桜のライトアップと言えば木全体を照らす。しかし、僕たちは枝や幹には一切、光を当てない」
物理的な樹木を、あえて闇に葬り去る。そうすることで、はじめて『花びらという現象』が純粋な光として結実するのだ。それは、実体を消すことで真実を浮き上がらせる究極の引き算であった。また、卵形の物体「ovoid(オボイド)」についても、「光だからこそ発色できる何とも言えない色」を目指したという。デジタルは自然を支配するツールではない。むしろ、生命のエネルギーを翻訳するための謙虚な技術である。赤刎氏の言葉に、私たちが求める「良質な体験」の答えがあった。

チームラボ《ツバキ園の呼応する小宇宙 – 固形化された光の色, Dusk to Dawn》©チームラボ












