境界なきアートの深淵。渦潮の如く立ち上がる「生命の構造」を解き明かす
会議室の照明が落とされた。巨大なスクリーンに鮮やかな映像が映し出される。チームラボの中村氏は、プロジェクターの光を背負いながら語り出した。まるで現代の哲学者のように「境界」について説く。彼の視点は、地中の土壌から鳥の羽ばたきまで、連なる宇宙の摂理に繋がっていた。
「作品の境界線なんて、本当はないのです。この動画の渦潮をイメージしてみてください。海から渦だけを抜き出したら、それはただの海水に戻る。流れ、地形、風、魚などの生態系、そのすべてが揃って初めて、渦という『構造』がそこに立ち上がる。僕らの作品も同じです。植物園という環境の流れが止まれば、消えてしまう儚い存在なのです」
命の循環を可視化する、数年越しの「共同作業」
中村氏の話は、作品が設置される以前の、この土地の「生命力」にまで及んだ。例えば、池に浮かぶ小島がある。そこには鳥が集まるように計算された植栽が施されていた。つまり、物理的な「環境」があるからこそ、アートが現象として成立するのだ。
「そこに虫が集まってくる。さらにその虫を捕食する鳥も集まってくる。すると、そこには目に見えないエネルギーの流れが生まれます。僕たちはその動きをセンシングし、光の軌跡として可視化する。そうした全ての要素が揃って初めて、作品は完成するのです。」

チームラボ《風の中の散逸する鳥の彫刻群》©チームラボ
都市の不完全さを愛でる感性
一人の男性としての真摯な眼差しで、中村氏は山奥の闇と都市の夜空を対比させた。「山奥であれば、光は研ぎ澄まされます。一方で都市部は空が明るい。でも、その時々で環境光は変わり、来るたびに見え方が変わるのです」
完璧な闇を求めるのではない。むしろ、都市の不完全な明るさを「作品の表情」として迎え入れる。不完全な環境を愛し、一期一会の構造を見つめる。中村氏の瞳に映っているのは、単なるデジタルアートではない。昼の静寂と夜の咆哮が溶け合い、境界を失った新しい世界の地図であった。

チームラボの「引き算の美学」について熱弁を振るう中村氏。その言葉は理論的でありながら、自然への深い愛情に満ちている。—Journal-ONE撮影












