世界陸上・東京に向けフルスロットル
今年の日本陸上界は、9月に開催される”東京2025世界陸上競技選手権大会”(”世界陸上”)が最大のピークとなる。東京世界陸上での活躍を期す選手たちは、屋外シーズン開幕とともにフルスロットルの状態で、ここまで各種の重要競技会に挑んできた。
チームジャパンとしては、5月末に韓国・クミ(亀尾)市で行われたアジア選手権が終わったところで小休止。6月は、それぞれの戦略で、7月4~6日に控える日本選手権に向けて、牙を研いでいる。
今回はこれまでにレポートした競技会も含めて、目を引いたトップ選手たちの「2025春の陣」を、トラック&フィールド種目に絞って振り返ってみよう。
鵜澤が快進撃、200mとリレーで好走連発
この春、大きな成長を感じさせた選手は?と問われたとしたら、まず、男子200mの”鵜澤飛羽”を挙げたい。
5月3日の静岡国際の予選で20秒13(+0.8)をマークして、東京世界陸上の参加標準記録(20秒16)を突破すると、決勝では日本記録(20秒03)に肉薄する20秒05をマーク。残念ながら追い風2.1mと、公認される風(+2.0mまで)をわずかに上回ったため参考記録となったものの、日本人初の19秒台突入を予感させるに十分な快走を披露したのだ。

200mで好記録を連発している鵜澤(中央)。日本人初の19秒台が目前に迫っている‐児玉育美撮影
その直後には、中国・広州で開催された世界リレーのメンバーとして遠征し、男子4×100mリレー予選で2走を務めて快走。5月末のアジア選手権では、日本歴代4位となる20秒12(+0.8)と自己記録を再更新。前回(2023年)のタイ・バンコク大会に続く連覇を達成している。
中学時代まで野球に取り組んでいたが、宮城・築館高校から陸上に転向。2年時のインターハイでは、わずか1年半のキャリアで100mと200mを好記録で制し、一躍注目される存在となった。筑波大学では入学直後に重度の肉離れに見舞われたことが尾を引いた時期もあったが、大学3年となった2023年には日本代表に初選出され、アジア選手権では優勝、ブダペスト世界選手権では準決勝に進出。
昨年のパリ五輪でも準決勝まで駒を進めた。この冬は、強靱な肉体をつくりあげて、高い強度のトレーニングを消化。持ち味の後半に頼ってきたレースパターンを、前半から戦略的に加速していくパターンへと変貌させたことで、「世界で戦っていける走り」へと着々と近づいている。
社会人1年目となる今季は、長くシーズンを想定して、最終的な仕上げはこれから入っていく戦略。アジア選手権を制した直後には、「レース内容としては、今後やっていきたいレースの形になってきている」。
「(世界陸上まで)3カ月ちょっとあれば、あとは勝手に筋力と体力が成長できる。現状で、ちゃんと走った場合に、平均で(20秒)1台くらい。どこかで上振れすれば19秒台は出る」と頼もしい言葉を聞かせてくれた。その「上振れ」する瞬間は、早ければ3連覇に挑む日本選手権になるかもしれない。

鵜澤は、アジア選手権で2連覇を達成-児玉育美撮影
学生スプリンターたちが急成長。リレー侍は層の厚みを示す!
鵜澤の項でもご紹介した通り、5月10~11日には、中国・広州で世界リレーが開催された。この大会は世界陸上の予選会も兼ねており、上位14カ国に出場資格が与えられるだけでなく、決勝進出を果たすと世界陸上での予選でシードレーンが割り当てられることになっている。世界陸上本番で「悲願の金メダル」を目指す日本はこのシードレーンを狙って、今大会は男子4×100mリレーのみを派遣した。
今回、日本代表には、大エースの”サニブラウン アブデルハキーム”、世界大会代表実績を持つ鵜澤のほかは、大学生を中心とする若手スプリンターが選出されることに。サニブラウン、”愛宕頼”(大学4年)、鵜澤、”井上直紀”(大学4年)のオーダーで臨んだ予選では、日本歴代8位となる37秒84をマークして1着でフィニッシュし、全体でも南アフリカと並ぶトップタイムで決勝に進出。
翌日の決勝では、走順を大胆に変更。”大上直起”(社会人2年目)、”西岡尚輝”(大学1年)、愛宕、井上というフレッシュなオーダーで挑み、南アフリカ、アメリカ、カナダに続いて38秒17で4位に。3位のカナダには0.06秒差の惜敗だったが、選手層の厚みを印象づける結果となった。
世界リレーに出場した学生スプリンターのなかでは、予選と決勝でアンカーを務めた井上の充実ぶりが目についた。100mのワールドランキングでは、サニブラウン、”栁田大輝”に続き、日本人3番手に浮上、現段階ではターゲットナンバー内に位置している。

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