最新の設備を備えたアリーナの作り出す非日常空間と、夢から目を覚まさせるような厳しい現実。
この試合をアルバルク東京の目線で見た時、彼らにはその両面が同居した2025−26シーズンの幕開けとなった。
試合でホームのA東京は、56−81と大敗した。屠られた、としてもいい。

トヨタアリーナでの記念すべき1st Tip-off-永塚和志撮影
10月3日。東京都江東区青海にできたトヨタアリーナ東京(TAT)で、Bリーグは今年も「元日」を迎えた。金曜日の夜。B1の中では他のカードに先んじて行われた。ホームのアルバルクが対峙したのは宇都宮ブレックス。前年のリーグ王者。9年で3度も優勝をしている、紛うことなきリーグの盟主の一角。
9月の公開練習の際、A東京の安藤周人は記念すべき新アリーナでの開幕戦の相手があまりに強敵であることについて「いやがらせですかね」と話していた。
もちろん、冗談である。A東京だって宇都宮に次ぐ2度の優勝を誇るパワーハウスだ。普通にやれば、十分に伍して戦える力量を持っている。
普通にやれば、だ。
A東京はシーズン前、帰化枠ライアン・ロシターとブランドン・デイヴィスと2人の主力ビッグマンがインジュアリーリスト入りをした。さらにこの開幕戦当日となって、正ポイントガードのテーブス海がコンディション不良で欠場が発表された。

トヨタアリーナ開幕戦で欠場したデーブス海(A東京)-永塚和志撮影
これまで本拠地が幾度か変わりアイデンティティを構築するのに苦労していたA東京にとって、TATは彼らにとって念願の「城」である。スポーツ観戦に主眼を置いた施工で、様々なスイートルームやテラス席なども用意されたアリーナは壮麗の形容をしても言い過ぎではないものだ。
当然、この場所での開幕戦で好試合が期待された。それが10年目という節目を迎えるBリーグにとってもふさわしいものだとすら思われた。
だが、よく言うようにスポーツには筋書きがない。時にわれわれの期待を裏切ることもあるし、残酷ですらある。天は記念すべき試合で、A東京が万全の状態で戦うことを許してくれなかった。
試合開始を告げるティップオフから10秒もたっていなかっただろうか。宇都宮のMVPガード、DJ・ニュービルがドリブルから逡巡することなく中へ切り込み、レイアップを決めた。宇都宮がこの試合で苦戦をするとすれば、彼らが受けて戦った場合だったが、ニュービルのいきなりの得点は彼らに油断のないところを物語っていた。

ドリブルで切り込むDJニュービル(宇都宮)-永塚和志撮影
「わたしたちは正しい精神性と熱量、フィジカリティをもってプレーができたと思います。わたしたちは集団としてプレーもできたと思います。多くのミスをしてはいますが、それでも頭をもたげずに次に起こることに備え、チームを助ける姿勢がありました。ですので、わたしたちというチームにとっては喜ばしいものが見られたと思います」
試合後、宇都宮のジーコ・コロネルヘッドコーチはこのように試合を振り返った。開幕前、彼をはじめ宇都宮の面々は過去の経験を踏まえながら優勝の翌年の戦いぶりの難しさについて言及していた。
ニュービルの冒頭のレイアップもそうだが、宇都宮の面々は序盤から躍動感と力感あふれる動きが目立った。A東京も苦しいシュートを強いられながらもすがりつき、前半の途中までは点差の上では大きく引き離されていたわけではなかった。が、よりボールと人が動きチームとしてのゲームが機能していた宇都宮が優勢だというのはこの段階から明らかだった。
こうした点差のつく展開のあとの両軍の指揮官の弁は、えてして対比的なものとなる。A東京のデイニアス・アドマイティスHCは自身の選手たちが出だしから体のぶつけ合いで勝負ができておらず、そのこと「受け入れられない。もっともっと激しくやらねば」と冷静な口ぶりのなかで手厳しかった。

前線にボールを運ぶSG 大倉颯太(A東京)-永塚和志撮影
主力の欠場は、もちろん響いた。というよりも、それが敗因の大きな部分を占めたとしていい。ただ、そのような状況となって残された選手たちが言い訳がましいことを口にすることはまずない。A東京の安藤周人は「ここが居間の自分たちの現在地、立場。それが改めてわかった」と、毅然とした表情と口調で話した。

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