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ウィンターカップ 女子で優勝した大阪薫英
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「楽しむ」意識と安藤香織コーチの言葉

楽しんで。大阪薫英の選手たちは簡素な言葉を、コートに立つ時の意識として共有した。それは青臭くもあり――高校生なのだからそうであっても問題などないのだが――また建前のようにも思われかねないセリフだが、彼女たちにとって「日本一」という是が非でも手にしたい称号を得るために必要なことだった。

ただ、勝利への渇望をあまりに強く持ちすぎてしまうと体がミクロのレベルで強張り、ひいては積極性や強気を失ってしまう。往々にしてそれは、無意識のうちにやってくる。

「うちの子らは本当、真面目なので、結果を意識して失速するっていう。私は結構、脳科学が好きなのですが、結果を意識すると勝手に脳の血流が減少して、消極的になるって…‥本で読んだんです。あっはっは」

大阪薫英の安藤香織コーチは、鷹揚な笑い声をあげながらこのように話した。

「序盤は思い切ってやれるんですけど、後半は確実なところでいきたいとなったら三輪だけに行くとか、向こうのエースだけを守るとか、勝ちたいとなるとそうなるので。そうじゃなくて過程に集中しようっていうことをずっといい続けていました」

楽しむ。攻める。引かない大阪薫英。慎重にことを進めていいような場面でも、素早い攻撃でリングへ向かう。そして、躊躇なくシュートを放ち続けた。

前半でシュートの確率が良くなかった三輪も、自身の体を相手にぶつけながら得点を狙い続けた。

ウィンターカップ優勝決定後に表彰される大阪薫英・三輪

優勝決定後に表彰される三輪(大阪薫英)‐永瀬和志撮影

ウィンターカップ決勝のムードが一変

最終・第4クオーターの序盤。大阪薫英が桜花学園に追いつく。夏のインターハイを制した桜花学園も食い下がって、試合は一進一退となっていく。なのに、会場にはどこか大阪薫英の空気が満ちていた。1つの得点、1つの好プレーの威力がより大きなもののように感じられた。

そのことはコートに立つ大阪薫英の選手たちも感じていた。彼女たちは前日の準決勝でウインターカップ3連覇中だった京都精華を破り決勝へと進んだ。3年生で主将の幡出麗実は終始自分たちのあるべき姿で戦えていたこの試合とは違っていたと振り返る。決勝戦の前半にはなかったという「自分たちの雰囲気」を終盤には取り戻せたと話した。

「昨日(準決勝)とかは最初から最後まで自分たちの雰囲気でやれていましたが、 それが今日の前半はちょっと崩れてしまってたところがあったんですけど、特に4Qの途中からはもうみんな表情変わってすごいいい顔でやれてたし、会場も薫英のムードに変わったなっていうのは自分も感じました」。

ウィンターカップ決勝で大阪薫英・幡出が3Pを放つ

3Pを放つ幡出(大阪薫英)‐永瀬和志撮影

留学生不在での全国制覇の意義

近年の高校バスケットボールの実力校ではアフリカ出身者を中心とした留学生がいることが珍しくない。もっと言えば、長身の留学生選手のいることがウインターカップのような全国大会で上位に進出するためのほとんど絶対条件のようになっていた。しかし、大阪薫英は留学生選手不在で、全国制覇を成就してみせた。

幡出も三輪も、留学生選手のいるチームに勝つことに意義を見出して大阪薫英へ進学。

幡出は安藤コーチのバスケットボールで「日本人だけでそこ(留学生選手のいるチーム)に勝ちたいという思いが本当に強かった」と話す。

一方、三輪の場合は、留学生選手がいないチームを選択した理由。それは、自身がインサイドを担うプレーを身につける。そして、将来的にオールラウンダーになっていく道を描いてのことだった。

指導の証明とチームの誇り

試合後のコート上での優勝インタビュー。大阪薫英の複数の選手が安藤コーチの指導が日本一だと証明したかった、または証明できたという趣旨の言葉を口にした。留学生選手がいなくとも勝てる。それを示すことも、おそらく彼女らの言葉に含意されていたと思われる。

同じくコート上でのインタビューで、安藤コーチは大阪薫英が「多くの人たちに愛され、応援されるチームになった」と自負を込めながら話した。

後のメディアの取材で言葉の真意を問われた安藤氏。彼女のチームが日頃から学校の行事の手伝いや掃除など、バスケットボール以外の活動にも参加してきたことに触れた。それが周りに好印象を抱かせ、応援される存在になった要因として挙げた。

それはつまり、スポーツ選手としでのみならず、人間として手本たる存在であれという指導だったのではないか。そして、だからこそ、より多くの人たちが支持するチームになったのではないか。

試合終了から数十分後。安藤氏は記者会見で「多く人たちに…」がどのような意味において発せられたものだったのかを聞かれ、こう返した。

■記者プロフィール
永塚 和志
フリーランススポーツライター。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、FIBA W杯や米NCAAトーナメントを取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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Journal-ONE記者の永塚和志氏
取材・文:
永塚 和志( 日本 )
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