2)オフェンスがキーエリアに入って10秒経過した場合、相手にボールの所有権が移る
つまり、オフェンスは3人しか入れないディフェンス側のスペースをついて、トライラインを越えるような攻撃を仕掛けますし、ディフェンスはトライを防ぎながらキーエリアに入った相手を10秒以上閉じ込めてボールを奪うなど、瞬時の判断でさまざまな展開が生まれる激アツ・エリアです。
この練習に入る前に峰島さんが “基本的なディフェンスフォーメーション” を教えてくれました。「キーエリアの両サイドにローポインターがひとりずつ陣取り、8mあるキーエリアの間口を狭めつつサイドからの侵入を防ぎます。そして、中央にハイポインターがふたり並んで相手の突進に合せてディフェンスするんですよ。」と峰島さん。戦国武将や三国志にでてくる戦場のような展開です!
池さんのかけ声でキーエリアに近づいていくFreedomとそれを迎え撃つAXEの攻防から練習が始まりました! 白川さんがサイドに展開してハイポインターを引きつけ、スペースが空いたところに飛び込む選手にパスを入れる! 池さんが正面から突っ込み、渡邉さんがスペースに切り込む! Freedomの多彩な攻撃にも冷静に動きを読んでスペースに誘い込んで、乗松さんと山口さんが挟み込む!とめまぐるしい攻防が続きます。
ディフェンスのローポインターの動きをブロックし、スペースを空けようとFreedomの松岡 幸夫選手、崎山 忠行選手が両サイドで陣取り合戦を展開するなど、ローテーション毎に戦い方のバリエーションが豊富で目が離せません。
その攻防でひときわ奮闘しているのが、Freedomの角 佳樹選手と、森澤 知央(ちお)選手。ハイポインターの角さんは競技歴7年ですが、「私は、この競技では珍しい先天性脳性麻痺(まひ)でプレーをする選手です。病気の性質上、どうしても手足の動きが一瞬遅れてしまうため、上手くプレーが出来ないことがあります。」と話すように、できるだけ速い判断をしようと、激しい攻防の中でも味方の声に耳を傾けます。
また、森澤さんは競技歴がまだ浅いローポインターの選手。AXE・ローポインター選手たちの速い動きに対応しようと、ラグ車を寄せたりスペースに切り込んだりと日本代表クラスの選手たちに食らいついていきます。
さまざま選手がコートにいる中、日本代表キャプテンの池さんは峰島さんと激しくぶつかりながら、他の選手たちに常に目を配って的確にポジショニングや対応の仕方をコーチしていきます。自分もプレーしているのに、なんでそんなに周りが見えるのでしょうか・・・
ローテーションの合間には、ベテランの松岡さんと崎山さんが同じローポインターの森澤さんと試合展開の解説をしたり、池さんが角さんとスペースへ切り込むタイミングを話し合ったりと、休む間もなく技術を吸収しようと密度の濃い時間を過ごしていました。
観戦ポイント その3:ミニゲームで戦術を勉強
コートに立つ選手4人の持ち点の合計が常に8点以下で構成されなければならない車いすラグビー。4人一組を構成する “ライン” を見て、そのチームがどのような試合展開をするのかを予想するのも試合観戦の重要なポイントとなります。
合宿2日目は、AXEにニック選手と倉橋 香衣(かえ)選手が合流し、両チームの人数が揃いました! いよいよミニゲームでより実践に近いトレーニングが始まります。
持ち点8点を超えないようにラインを編成するには、基本的にハイポーンター2名とローポインター2名の組み合わせが多いようです。例えばAXEの峰島さん(持ち点3.5)、羽賀さん(持ち点2.0)、乗松さん(持ち点1.5)、山口さん(持ち点1.0)のラインですと、ちょうど8点になりますね。
こういったラインを幾つも用意し、相手チームとの相性や選手たちの疲労度、試合の流れを見ながら入れ替えをしていきますので、バリエーションの多いチームほど優位に試合を展開できることになります。
ところが、先日のSHIBUYA CUPでAXEにとって重大な “事件” が発生してしまいました・・・ 日本代表に選出された青木 颯志選手のクラス分けで、持ち点が2.0から3.0に変更されてしまったのです。羽賀さんと同じ持ち点2.0の青木さんは、羽賀さんとの入れ替わりでラインを組むことがあり、攻守の要として期待されている選手。来年1月に行われる日本選手権での上位進出を狙うAXEは、青木さんの持ち点変更でラインの組み直しを余儀なくされてしまったのです。
「正直、颯志の持ち点変更は痛いです。でも、この合宿で強豪のFreedomさんを相手にプレーオフに向けた修正をすることが出来るので、前向きに考えていきたい。」と峰島さんが語ったように、既に日本選手権への出場を決めているFreedomとの合宿は絶好のタイミングだったようです。