試合を盛り上げるソフト独自ルール
野球と並び、国民的人気ボールゲームである“ソフトボール”。投手が下から投げることや、ボールがとても大きいことなど、野球とは見た目にもかなり違うのがソフトボールだ。しかし、見た目以外にソフトボールには「試合を面白くする」幾つかの独自のルールが存在している。
この独自ルールを少し知るだけでも、試合観戦での面白さが格段に違ってくることをご存じだろうか。今回、世界最高峰の国内女子ソフトボールリーグ“JD.LEAGUE(以下、JDリーグ)”を観戦するに知っておきたい独自ルール“リエントリー(再出場)”について紹介していこう。

一点を巡る攻防はソフトボールならでは醍醐味-Journal-ONE撮影
リエントリーとは
リエントリーとは、スタメンに起用されている選手が選手交代で試合から退いても、一度に限り再出場することできる野球にないソフトボール独自のルール。
例えば、無死一塁でどうしても得点圏に走者を進めたい、あるいは二塁からワンヒットで一点を取りたいという緊迫したシーンで足の速い選手を“代走”として起用するケースがある。野球の場合、この代走が告げられた走者がチームの4番打者だった場合、交代した4番打者はそれ以降試合に出場することができず、その後打順が回ってきた場合にチームは大きな戦力ダウンを余儀なくされる。
しかし、ソフトボールにおいてはリエントリーを使うことで、代走を送られた4番打者がもう一度打順に戻ってプレーができる。そのため、チームによっては早い回から好機でリエントリーを使い、様々な戦術を駆使して勝利を呼び込もうとするのだ。
9イニングスを戦う野球と異なり、7イニングスで決着をつけるソフトボールでは、先制点を挙げることが勝利に最も近づく戦い方と言われている。特に好投手を擁するチーム同士の対戦やオリンピックなどの国際大会では、そもそも得点を挙げる機会が少ないため、余計にリエントリーを使ったベンチワークが試合展開を動かし、勝負の行方を決すると言っても過言ではない。
序盤の代走起用で先制点を狙う
このリエントリーによって増えるのが、試合序盤(2回や3回)で積極的に代走を起用して、得点を狙いに行くという展開。MLB(米・大リーグ)、NPB(日本プロ野球)などの中継や試合観戦で目にすることは殆ど無いが、JDリーグにおいては良く使われる戦術だ。
早い回からこのリエントリーで代走起用を行い、試合を動かすことで知られる“豊田自動織機シャイニングベガ(以下、豊田織機)”の永吉慎一監督に話を聞くと、「うちは、1試合で1回しかチャンスが無いですから(笑)」と冗談を交えながらリエントリーの妙を教えてくれた。

リエントリーを使い1点を取りに行く永吉慎一監督(豊田織機)-Journal-ONE撮影
「大前提として、足が速いとか守備が上手いとか一つの能力に長けた選手がいるからこそ使える戦術ですが、ベンチの選手が起用の場面を読んで準備していることが大事です」と、チーム一丸となってこそリエントリーが活きると話す永吉監督。
確かに、豊田織機には梶原沙希選手、伊礼真歩選手といった俊足で走塁センスに長けた選手が多く所属している。彼女たちは、試合序盤から起用されそうな展開を予測し、交代を告げられる前からヘルメットを被りベンチで出番を待ち受けている。試合観戦では、豊田織機ベンチのこういった微妙な動きにも注目することで、試合への没入感も一層高まるだろう。

スタメン起用以外でも梶原沙希選手(豊田織機)は様々な役割をこなす-Journal-ONE撮影
代打に代走、多彩なリエントリーの使い手
JDリーグ西地区の豊田織機・永吉監督と共に、毎試合多彩にリエントリーを使いこなす監督として話を聞いておきたいのが、JDリーグ東地区“戸田中央メディックス埼玉(以下、戸田中央)”の福田五志監督だ。
今シーズン、日本のエース・後藤希友投手がトヨタレッドテリアーズから移籍したことで一躍話題となった戸田中央は、前半戦の東地区で頭一つ抜けた試合展開を見せている。後藤投手に注目が集まる戸田中央だが、上位から下位まで走攻守三拍子そろった選手をスタメンに配し、若手からベテランまで福田監督のソフトボールイズムが浸透したチーム力が現在の好成績を生み出している。

リエントリー使いの魔術師・福田五志監督(戸田中央)-Journal-ONE撮影
