ベテランから若手までがひしめき合うなかで、やや抜けだした感があるのは栁田か。記録面では10秒0台で2回、追い風参考では9秒95(+4.5)をマーク。また、ゴールデングランプリではクリスチャン・コールマンを下し、アジア選手権では2連覇を達成と、勝負強さも見せている。
前回は、優勝候補に上がりながらも3位に終わり、パリ五輪代表の座を逃した。それだけに、まだ手にしていない「日本一」への想いも強く、参加標準記録(10秒00)を突破しての初優勝で、自国開催の世界陸上代表内定を狙う。

今季、男子100mで安定した力を見せている栁田。悲願の優勝と100mでの世界陸上出場に挑む‐児玉育美撮影
本来であれば、優勝候補の筆頭となるのは、”サニブラウンアブデルハキーム”。2022年・2023年世界選手権での2大会連続入賞を果たしているトップスプリンターで、昨年のパリ五輪も決勝進出にはわずかに及ばなかったが、準決勝で9秒96の自己新をマークしている。
唯一、参加標準記録を突破済みで、日本選手権で3位以内になれば、その時点で内定が決まり、8位以内であれば、代表入りがほぼ確実となる状況だ。しかし、現時点で今年のシーズンベストは10秒31。世界陸上本番に照準を定め、日本選手権もその過程に位置づけているとはいえ、仕上がり具合の遅さが気になるところ。決勝までに、きっちりと調子を上げておきたい。

飛び抜けた実績を誇るサニブラウンは、今季はスロースタート。日本選手権までに、どこまで調子を上げてこられるか‐児玉育美撮影
桐生祥秀、山縣亮太、ベテラン9秒台スプリンターの活躍も期待
また、今季は、これまで男子短距離を牽引してきたベテランたちが、上位争いに絡める仕上がりを見せている。前述した小池の10秒09は、9秒98をマークした2019年以来となる自己3番目の記録。日本人最初の9秒台スプリンター”桐生祥秀”も、公認では10秒15がシーズンベストだが、追い風参考(+2.7m)では10秒06をマークしている。
また、ケガからの復帰に時間がかかっていた日本記録保持者(9秒95)の”山縣亮太”は、ぎりぎりのタイミングで日本選手権の出場圏内に滑り込んでいたが、大会1週間前の6月28日に、出身地の広島県選手権にオープン出場して、今季日本リスト3位タイとなる10秒12(+1.7)をマーク。一気に上位争いが狙える位置まで浮上してきた。
さらに、今季は”井上直紀”(早稲田大学)、”守祐陽”(大東文化大学)、”愛宕頼”(東海大学)らを筆頭とする学生スプリンターたちも急成長を遂げており、この日本選手権で一気にブレイクする可能性もあるほか、鈴木涼太ら中堅年代も、多数自己記録を更新している。
果たして、いったい誰が頂点を極めるのか。日本選手権での9秒台パフォーマンスは、109回を数える歴史のなかでまだ誕生していない。実現すれば、世界陸上代表入りはもちろんのこと、史上最高のレースを制したという称号もついてくることになる。

今季好調のスプリンターたち。左から小池、桐生、樋口、井上、鈴木‐児玉育美撮影
女子5000m:2種目出場を狙う田中希実の4連覇か、復活の廣中璃梨佳か
初日に行われる女子5000m決勝も、見応えのあるレースが展開されそうだ。この種目は、現在、14分29秒18の日本記録を持つ”田中希実”が3連覇中。5連勝中の1500mとあわせて、4年連続2冠が狙える状況にいる。田中は、2種目ともにすでに参加標準記録(1500m:4分01秒50、5000m:14分50秒00)をクリアしており、ダブルタイトル獲得は、2種目での東京世界陸上代表内定をも意味することになる。

1500mと5000mの2種目で、すでに参加標準記録をクリアしている田中。2冠で2種目内定を決めたい‐児玉育美撮影
1500mについては、6連覇を達成する可能性が限りなく高い状況にあるが、5000mでは、前日本記録保持者の”廣中璃梨佳”が、今季、膝の故障から復活して、着実に調子を上げてきている。廣中は4月に別開催された日本選手権10000mを制して、2年ぶり4回目のタイトルを獲得済み。今大会の5000mに勝てば、自国開催の東京オリンピックでの活躍(5000mを日本新で9位、10000mで7位入賞)に繋げた2021年大会以来となる2冠が実現することとなり、東京世界陸上に向けての道も大きく広がっていく。

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