田中の5000mのシーズンベストは15分06秒78(ただし、2月にショートトラック=室内で14分51秒26をマークしている)、廣中も15分05秒69まで戻してきた。日本選手権での両者が相まみえるのは2022年大会以来3年ぶり。気象条件にもよるだろうが、一歩も引かない2人のマッチレースによって、2004年に福士加代子がマークした15分05秒07の大会記録を大きく上回る、日本選手権では初となる“14分台対決”が実現するかもしれない。

ケガからの復活を果たした廣中。アジア選手権では銀メダルを獲得。4月に行われた10000mに続く選手権獲得を狙う‐児玉育美撮影
女子100mハードル:歴代上位者がずらり。史上最高バトルを制するのは?
日本では18年ぶり、東京・国立競技場では実に34年ぶりの開催となる東京世界陸上の日本代表選考会として行われる日本選手権において、大会最後の決勝種目に据えられたのは、男子100mでもなく、男子110mハードルでもなく、女子100mハードル。この種目の活況ぶりがうかがえるタイムテーブルと言ってよいだろう。
実際にエントリーリストを見ると、すごい顔ぶれとなっている。現在、12秒69の日本記録を持つ”福部真子”を筆頭に、12秒8台の自己記録を持つ”田中佑美”(12秒81)、”中島ひとみ”(12秒85)、”青木益未”(12秒86)、”寺田明日香”(12秒86)、”清山ちさと”(12秒89)、12秒9台の自己記録を持つ”大松由季”(12秒94)の歴代12秒台ハードラー7選手全員が勢揃いするのだ。
この記録の世界陸上参加標準記録は12秒73。福部は昨年、これを上回る記録をマークしているが、樹立したのが世界陸上参加標準記録有効期間前であったため、現状では突破者ゼロの状況だ。
しかし、前回のパリ五輪代表を懸けて行われた前回の日本選手権では、福部が準決勝で五輪参加標準記録を突破し、優勝を果たしたことで代表に即時内定している。今季の活況ぶりを考えると、大会期間中に複数の選手が標準記録を突破してくる可能性も十分にある。そう考えると、2日に行われる予選・準決勝も目が離せない。
最も高いレベルで安定しているのは、アジア選手権で銀メダルを獲得している田中。パリ五輪準決勝進出を経験して、地力が1段階上がった印象だ。中盤でリズムを崩さずに走りきることができれば、参加標準記録のクリアと初の日本一の座は近づいてきそう。その田中を追う状況にあるのが、今季躍進著しい中島と、33歳のベテラン清山で、どちらも12秒8台への突入を果たしている。
ワールドランキングのポイントでは、簡単に言うなら、田中は現状で出場がほぼ確実な圏内、清山がターゲットナンバー(出場枠)ぎりぎり、中島は「あと、もうちょっと」という形で続いている。3人ともに日本選手権の順位が重要で、特に、清山・中島はランキング順位を上げるための記録も求められることになる。

女子100mハードルで今季自己記録を更新している選手たち。左から田中、清山、島田、中島‐児玉育美撮影
寺田明日香、第一線で戦う最後の日本選手権
日本人初の12秒台ハードラー、引退から再復帰して世界へ、ママさんハードラー等々、さまざまな肩書きとともに、日本の女子陸上界に数々の新しいスタンダードを示してきた寺田は、「世界大会を目指す第一線での競技活動は今季が最後」と発表して今季に突入しており、今回が「世界を目指す」最後の日本選手権となる。
とはいえ、走力はアップしている状況で、布勢スプリントでは追い風参考記録ながら12秒85(+3.0)で優勝を果たしており、2年ぶり優勝を期す。日本記録保持者の福部は、昨年秋に患った大病から復帰の段階。ゴールデングランプリで13秒12のシーズンベストをマークしているが、その後に行われたアジア選手権は体調を崩して代表を辞退した。コンディショニング次第という状況になりそうだ。

トップシーンの活動は今季限りで終えることを公表している寺田だが、その競技水準には衰えは感じられない‐児玉育美撮影
12秒86の前日本記録保持者で、寺田とともに日本の女子ハードルを「12秒台が日常」になるレベルに導いた功労者の青木も、今季は春先以降、故障の影響で競技会からは遠ざかっていたが、トレーニングでは復調してきている。寺田、福部、青木については、世界陸上に出場するためには参加標準記録突破しかない状況。まずは日本選手権をきっちりと戦う必要がある。

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