上野)「プロ野球選手は、もっとこんなに大きいポケット持っているよ」など、周りが目標を示してあげられるかも大事ですね。「みんなもやればできるのだから、ひとつひとつできることを増やしていこうね」と導いてあげるような。
上野)そして、小さな目標でも達成した時の喜びをみんなが忘れないようにしてあげられれば、子どもたちは純粋にひとつひとつ目標を積み重ねていけるのではと思います。加えて、できないことを追うよりも、できることを積み重ねていく方が、階段を上るように子どもたちも順調に成長してくれると思います。
教える立場も教わる立場
― なるほど。教える人と教えられる人が一緒に階段を上る感覚ですね。上野選手も若手から中堅、そしてベテランと立場が変わる中、教える側に立つ場面も増えているのではないでしょうか?
上野)そうですね。自分は教える側よりも、教わる側が大事だなといつも思っています。若い選手にも「教わり方が大事だよ」とよく話します。
上野)基本的に選手は受け身の立場なので「はい」と言って聞いておけば… といった関係になりがちです。しかし、トップに立つ選手になりたいと考えれば、周りが10聞いているところで11聞くことができれば、周りよりも上手くなれるわけです。このプラス1の積み重ねがどれだけできるで、一流選手になるか二流選手で終わるかに分かれていく。ですから、教わり方が大事なのだと話すのです。

子供たちの指導を通して学ぶことを話してくれた-Journal-ONE撮影
― 教える側はどうでしょうか?
上野)自分が教える側に立てば、なんでも教えられます。何故なら、経験してきたこと喋っているだけなので。一方、教わる側に立つと、意味がわからないことも教わりますし、理解するのが難しい時もあります。「そんなことは知っている」と思うものもありますよね。
上野)そして、教える側は「何がこの子たちに響くかな」と手探りで考えながら教えています。それであれば、何を教わりたいか、何を教わるかを明確にした方が効果的に成長できると考えています。自分も質問を受けることがありますが、なんとなく質問をされても、その中で本当に聞きたいことが何なのかが分からないことがあります。せっかくのアドバイスも、それが本当に聞きたいことでなければ無駄になってしまいますよね。
― 教える側、特に指導者の皆さんは質問を受けるだけではないですよね。
上野)はい。指導者の方も「こうした方が良いのではないか」と言う前に、「こういう理由で提案している」「どういう風に変わって欲しいと思っている」と添えてみる。教える目的を、選手に分かってもらえるよう伝えると良いと思います。
上野)それが積み重なってくると、選手の方も教わる意識が高まってきます。「あ、監督は何を言いたいのかな」といった感受性が高まり、知らないものを習得したいという知識欲も出てきます。同じ言葉で教えられたことでも、拾うポイントが違ってくることで吸収できる部分が広がってくるのです。

選手、指導者それぞれの立場が分かるからこそ多くの共感を得られるのだろう-Journal-ONE撮影
― 指導以外のコミュニケーションでも気をつけたいですね。
上野)自分は、ちょっとした声掛けでも答える側が答えやすい質問をするようにしています。例えば、顔を合わせた際に「調子はどう?」と聞いてしまいがちですが、この質問ですと「はい、普通です」で終わり会話が続かなくなりますよね。それでは次の会話に進むことができないため、体調がどうなのかとか、投げているボールがどうなのかとか、コンディショニングは良いのか悪いのかなど、会話が続くような質問をしています。
上野)「どう?」とは聞かず「コンディショニングはいい?」「コンディショニング、少し身体が重そうだけど悪いの?」と話しかけると、「いや、そんなことないですよ」「身体はそれほど重くないです」と返ってきます。何について答えるべきかが明確になると、そこから会話が続いていきます。先ほどの「分からないことは、きちんと分からないと言う」にも繋がってきます。質問から深掘りし「そのポイントについてもう少し…」「このポイントは何故ですか?」と対話が続いていき、それが積み重なることで吸収できるものが増えていくのです。
― なるほど。それならば会話も続いていきますね。
上野)それに加え、自分が分からないことや、選手が知らなそうなことも聞くようにしています。自分は教える側でもありますが、教わる側でもあるので。




















