だが、その力を勝ち筋へ落とし込むのは、打線の“局面力”だった。石川の先制打は、相手エースの配球傾向を精査したうえで「打て」の戦術を選択したベンチの采配の妙。山田の一発は、「高めに浮いた球を逃さない」準備の結果だった。
トヨタの“決め切る力”は、まず坂元監督が掲げた“全員戦力”という設計図に基づいて構築された。そして、その設計図に、さらに経験値の高いベテランたちが“局面の判断”を書き込むことで、着実に磨かれていった。結果として、チーム全体が勝負どころで最大限の力を発揮できる体制が整ったのである。

就任一年目で日本一に輝いた坂元監督-Journal-ONE撮影
島仲湊愛の躍進がもたらした化学反応──1・2番の結束と、石川のキャプテンシー
セミファイナルで均衡を破った新人・島仲
歓喜に沸いた決勝戦の前日、同球場でセミファイナルが行われた。この試合で均衡を破ったのは、新人・島仲湊愛の3ランだった。
5回裏、1死一、二塁から右中間へ運んだ一撃で試合の主導権を掴んだ島仲。レギュラーシーズンでも打率.395で西地区首位打者を獲得するなど、走・巧・長のバランスが整った活躍を見せた。
石川が担ったキャプテンシー
上位打線の“回転数”を高まったシーズン後半から、石川は“1・2番の絆”を重視していた。加えて、試合中の円陣で、何度もチームメイトを鼓舞する石川の姿が見られた。これは、自分が出なくても次へ繋げるという柔軟な打席設計を共有するためだった。
「鎌田キャプテンは、とてもクレバーな選手。お互いが阿吽の呼吸で役割を果たしていた」と解説した石川。鎌田との連携で、“儀式”を請け負った理由を教えてくれた。
俯瞰的に局面を読める石川のアドバイスが、選手個々が“最適解”を出すヒントとなる。島仲の勝負強さを引き出したといっても過言ではない。
石川はベテランとしてのキャプテンシーを試合運びに浸透させた。チャンスの場面では相手バッテリーの“嫌な選択肢”を増やすために球数を投げさせるシーンもあった。守備では内野の連携を緻密に、セカンド鎌田との意思疎通も絶えることがなかった。

円陣でキャプテンシーを発揮する石川-Journal-ONE撮影
西地区ベストナイン受賞とその意味
そんな石川の西地区ベストナイン(遊撃手)受賞。それは、打撃・走塁・守備の総合貢献が評価された結果でもあるのだ。
「島仲の本来のポジションはショートなんです。でも、ポジションは譲る気はありませんし、首位打者も奪還します(笑)」。
といたずらっ子のように笑った石川。その心内は、“対抗心”ではなく“競争の健全さ”への信念と見て取れた。
若手の島仲や中堅の山田が躍進する一方で、石川はこれからも自らの局面対応でチームの“勝ち筋”を維持していくだろう。

ベストナインを受賞した石川と島仲-JDリーグ提供
坂元令奈監督の新機軸──「全員戦力」で再構築された勝ち方
坂元令奈監督は就任1年目。開幕前から「投手力の構成が昨季と違う」現実を見据え、守備の最小失点と攻撃の多様性を併走させるチーム設計に舵を切った。
キーマンはエースのファライモ、受け手の切石、そして上位打線の石川・島仲。“機動力×長打力”をかみ合わせることで、投打の“決め所”を明確化した。
開幕インタビューで語った「全員がヒーローになれる試合」を狙う思想は、シーズン終盤に結実した。さらに、ダイヤモンドシリーズの連戦でも、“役割最適化”が機能し続けたことが3連覇の要因となった。
この再設計を可能にしたのが、ベテランの“受け皿”だ。石川は状況判断で仕掛けの厚みをつくり、鎌田キャプテンはベンチとグラウンドの意思伝達を円滑化した。
若手の緊張を肩代わりする場面も目立った。組織の“動的安定”をつくるには、経験値のある選手が変化を先導し、若手が躍動できる環境を整える必要がある。トヨタはこの条件を満たしていた。
日本代表キャプテンとして──重責とやりがい、そして“勝ち方”の輸出
石川は日本代表キャプテンとして、2024年のワールドカップで主将を担った。加えて、打率.625でベストナインにも選出された。
代表でも“局面力”を武器に、勝負所で打線を前に進める役割を果たしてきた石川。国内リーグで磨いた状況対応力と守備連携を国際舞台に“輸出”することは、彼女にとっての使命でもある。




















