キャプテンは、勝つ責任だけでなく“勝ち方の共有”という重責を引き受ける役割だ。石川はそれを「やりがい」と表現する。それは、リーグと代表の双方で、次の世代が学びやすい“勝ち筋の型”も示している。
「勝つことが使命であるのが日本代表」と話す石川。この言葉には、必ずしもトヨタでの勝ち筋の型が日本代表の型に合致するものではないと聞こえる。
その点について石川は、「日本代表のマインド、メソッドもトヨタの若手たちに伝えている」と言う。「世界で戦う意識を持って、トヨタのソフトボールを突き詰める。そうすれば、代表を目指す若手も自然と代表に呼ばれる機会が増える」と石川。
次世代選手たちにさらなる期待を寄せていた。

日本代表の覚悟についても話した‐Journal-ONE撮影
石川恭子の“再輝動”──数字で見えない“仕事人”ぶり
レギュラーシーズンのタイトルでは、トヨタからメーガン・ファライモが西地区の最優秀防御率・最多勝に。さらに、島仲湊愛が首位打者、山田柚葵が本塁打・打点の二冠と主要タイトルを独占した。
石川恭子は西地区ベストナイン(遊撃手)に選出。打撃成績の“見栄え”を超えて、様々な局面に対応する打撃と、堅実な守備、試合の流れを変える走塁と、試合の“変曲点”に顔を出した仕事量が評価された。
ダイヤモンドシリーズの最高殊勲選手賞(MVP)。これも、先制打はもちろんショートでの好守備の総合インパクトによるものだ。
三連覇のプロセスを辿れば、「誰かが必ず決める」設計の中で、石川は“決める人を決めさせる”人でもあった。
自らの打席で先に点を取り、次の打者に“楽な状況”を渡す。守備では投手・捕手の意図を汲み、打者の傾向に合わせて内野全体の“守備線”を調整する。
勝ち切るための微差を積み重ねる“仕事人”ぶりは、数字に映りづらいが、勝敗の分水嶺に必ず影を落とす。

受賞したチームメイトと共に‐Journal-ONE撮影
インタビューから広がる物語──“負けない”という健全なライバル心
トヨタは若い力が台頭した。島仲湊愛は準決勝の3ランで躍動し、年間でも首位打者に輝いた。
石川は授賞後の場で、「若手にはまだ負けない」というライバル心を絞り出す。そこには、ポジションを競い合う関係でありながら、勝利の文法を共有させるベテランの仕事がある。
石川は鎌田優希キャプテンとともに、ベンチとグラウンドの“情報の流れ”を整え、若手が迷わず“最適解”を選べるよう背中を押した。「融合」という言葉で語られた今季のチーム像は、まさに「再輝動」の答えだった。
石川の“負けない”は、若手への対抗ではなく、自分の基準を毎試合上書きする覚悟の表現だ。劣勢や緊迫の場面で粘り強い打撃を見せ、出塁や進塁に“仕事”を残す。守備では“速く正確に”を定義として、内野全体のミスの最小化に寄与する。
2025年の石川は、例年以上に光り輝いたと評されても、なお次へ動く準備を怠らない。

”再輝動”の1年を振り返る石川-Journal-ONE撮影
結び──「再輝動」の先へ
「再輝動」は、再び輝くために自ら動くという宣言だ。石川恭子はそれを局面力の積み上げで体現した。
三連覇は、トヨタが“勝ち方”を再構築し、全員戦力で勝ち切った証拠である。代表キャプテンとしての重責も、彼女の競技人生をさらに「動かす」はずだ。
日本のショートストップを象徴する“走攻守”の三拍子は、2026年以降の新しい勝ち方へ、また動き出す。



















