この揺らぎの中で、人の存在をやさしく感じる。
誰かが沈んだ場所はほんの少し低くなる。誰かが慎重に踏み込む気配が振動となって伝わってくる。足元が不安定なぶん、お互いへの距離感が自然と丁寧になり、見知らぬ他者の存在がどこか温度を帯びて感じられた。
次の作品で体験する「他者が景色を変える」というテーマを受け取るための、心の準備がここでそっと整えられるようだった。
初訪問者におすすめしたいのは、この空間を“攻略しよう”としないことだ。まっすぐ歩こうと力を入れるより、沈む感覚に身を委ね、足裏から伝わる変化に耳を澄ませてみてほしい。意識を下へ、身体へ向けるほど、この作品の本質である“重力との対話”がくっきりと浮かび上がってくる。
ここでは、沈む床があなた自身の輪郭をそっと描き直す。重力に預けたぶんだけ、自分という存在が確かに立ち上がる、不思議に静かな体験だった。

チームラボ《やわらかいブラックホール – あなたの身体は空間であり、空間は他者の身体である》©チームラボ
Garden Area|花と香りで、没入を“旅の記憶”にする
外気に触れた瞬間、体験が自分のものになる。
チームラボプラネッツのWater Area展示群を抜け、ふっと外気に触れた。その瞬間、室内で揺さぶられてきた感覚がすうっと身体に沈んでいった。
その感覚をさらに磨いてくれるのが、Garden Area。チームラボプラネッツの展示群を外で触れるエリアとなる。
Floating Flower Garden|花と我と同根、庭と我と一体
花に包まれるとき、自分の輪郭がほどけていく
花と香りで、没入を“旅の記憶”にする。ここは、まさにその“着地”のための場所だ。ここに広がるのは、ラン—地球上でもっとも新しく進化した植物群のひとつ。厳しい環境を生き抜きながら多様な形へと進化したランが、香りや色彩だけでなく“時間の流れ”までも空間に滲ませている。
先ほどまで体験してきた作品は、光や映像、重力に身を委ねながら、身体の認識を揺らす“旅”そのものだった。その余韻がまだ体内で脈打つままガーデンへ足を踏み入れる。すると、湿度が少し変わり、花の気配が空気に混ざり、風が頬をかすめた。
その一つひとつの変化が、室内で体験してきた抽象的な没入を“現実の粒子”で結び直してくれるようだった。香りがゆっくり変わる瞬間、まるで自分の体験が身体に定着していくのを感じる。
ここで使われている植物はラン。地球上で最も新しく出現した進化系の植物グループのひとつとして知られ、現代も進化を続けていると言われる。
初訪問者におすすめしたいのは、ガーデンではあえて歩幅を落とすことだ。
速く歩けば見落としてしまう微細な変化がある。——風が触れる、湿度がひと息だけ変わる、花の香りが移り変わる。そうした小さな揺らぎを拾うほど、“外の世界へ戻ってきた自分”がより鮮明に立ち上がってくるだろう。

チームラボ《Floating Flower Garden: 花と我と同根、庭と我と一体》©チームラボ
Solidified Light Color, Dusk to Dawn|呼応する小宇宙の苔庭
光は固まり、時間は滲む—最古の緑に、宇宙が降りる
チームラボプラネッツのランが咲き誇るガーデンエリアを抜ける。すると、足元の湿度がすこし変わりその先に「呼応する小宇宙の苔庭」が現れた。
ここで迎えてくれるのは、ランとは正反対の存在。——地球上で最古の植物グループのひとつといわれる“コケ”だ。
ランが進化の最先端なら、コケは生命の原点。たった数分前まで“もっとも新しい植物”に囲まれていたのに、次の瞬間には“もっとも古い植物”の世界へ足を踏み入れている。この切り替えの妙だけで、身体の内側で時間が反転するような感覚が生まれる。
静けさが濃くなる庭——Ovoidが映す“揺らぎ”
苔庭に浮かぶのは、チームラボの象徴 Ovoid(オーバイド)。昼間のOvoidは、苔の柔らかな緑を静かに映し込んでいる。そして、凛とした卵形の存在感だけを残して佇んでいた。
その静けさのなかで私は、自分がとてもゆっくり呼吸し始めていることに気づいた。苔の質感が音を吸い込み、風が触れるたび、緑の粒子とOvoidの輪郭が微細に揺れる。光や音で圧倒される作品たちと違い、ここは“静けさの密度”で没入させる庭だった。
そして、「夜はまったく別の表情になりますよ」と聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。昼間の穏やかさだけでも十分に満たされたはずだった。しかし、夜のOvoidが光を放ち、苔庭全体が色の連鎖で呼応すると知った途端、“もう一つの世界”への憧れが湧いてくる。




















