人生初のソフトボール観戦に行く
のっけからコンフェッションということで、少しドキドキしながら告白するけれど、今回は近場である。「遠出をしてスポーツを楽しむ」というのが、なんとなく、緩やかに、そこはかとなく掲げられた当コラムのコンセプトなのだが、それが連載3回目にして、早くも揺らぐ事態である。大丈夫なのか。
ちなみに今回の目的地は神奈川県秦野。拙宅のある二宮町の隣に中井町があり、その隣はもう秦野市だ。近いぞ、これは。繰り返しになるけれど、大丈夫なのか。とは言え、冷静に考えてみると公共交通機関を使う場合、今回目指す場所まで、ドア・トゥ・ドアで1時間15分ほどなので、所要時間という意味では必ずしも近くはない。それに、東京や横浜から目指す場合、秦野は十分に遠い。
だいたい、秦野で気になるスポーツイベントがやっているのだから、しょうがないじゃないか。そんな苦し紛れの、ロジックが成立していない言い訳を考えつつ、梅雨入り前のとある週末、私は車上の人となった。
車上といっても電車ではなく、今回はバス。二宮駅から秦野駅まで、電車でも行けなくはないが、その場合、長細い二等辺三角形を横倒しにして、長い2辺をトラベルする感じになる。それはそれで、悪くないのだけど、この日は朝に漁があり(そう、ワタクシ、パートタイムで漁師もやっているのです)、時間的な制約があったので、横着してその三角形の短い1辺をバスでズドンと北上した次第である。
遅くなったが、この度の目的は”中栄信金スタジアム秦野”での”JDリーグ”観戦。JDリーグとは、”Japan Diamond Softball League“の略であり、同リーグでは東西2つの地区に分かれた計16チームが、ダイヤモンドシリーズと呼ばれるポストシーズン進出と、その先にあるグランドチャンピオンの栄冠を目指して鎬を削っているのである。もちろん、JDと言っても女子大学ではない。あのレジェンドの”上野由岐子“も、高崎のチームでプレーしているのである。
そんなリーグの東地区に在籍する6チームが、6月上旬の秦野にやって来て、週末の2日間をかけて計6試合を行うとの情報をキャッチしたのは5月下旬のこと。考えてみると、これまでソフトボールはテレビでしか見たことがない。地方球場で玄人のソフトボール。完全なる門外漢として、そこにどんな風景が広がっているのか、明確にイメージできないところに魅力を感じる。そんなわけで、未知の体験を求め、人生初のソフトボール観戦と相成ったのである。
軽便鉄道の廃線跡をたどり秦野へ向かう
二宮駅から秦野駅へは路線バスが通っていて、所要時間は30分ほど。料金は片道500円也。二宮駅北口の停留所を出発すると、バスは海を背にして、ひたすら大磯地塊(大磯丘陵)にある葛川の谷戸を北上する。その丘陵の北側の端っこの先に広がる盆地が秦野である。
今回はバスのみの利用となったが、この秦野行きのバスは、そのルートの半分ほどが、知る人ぞ知る”湘南軌道”の廃線跡の道と重なっているため、かつて大正から昭和初期にかけて走っていた軽便鉄道の車窓を眺めているような気になり、そんな疑似体験が楽しい。
道すがら、確かに今様のショッピングモールなどもあるが、現代的な幹線道路とは異なり、緩やかなカーブが連続するローカルな道は、「実はこう見えて、私、昔は軌道だったんですよ」と語りかけてくるようだ。昔、軌道だった道には、歴史と浪漫がある。
そんなかつて線路だった道を辿るバスは、最終的に秦野駅南口に到着する。目的地の中栄信金スタジアム秦野は、秦野駅北口を出たところに流れている水無川沿いに上流へ30分ほど歩いた公園内にあるので、南口から階段を上がり、秦野駅を素通りして北口から出て、その先にある川へ向かう。
鉄道を利用していないのに、駅舎を通り抜けることにちょっとした後ろめたさを感じるが、まあしょうがない。鉄道の駅はランドマークでもあるのだ。なお、秦野駅から中栄信金スタジアム秦野へは、バスでも行けるが、遠出のスペシャリスト(?)として、ここでバスを乗り継ぐのは味気ない気がしたので、歩くことにした。
道沿いの紫陽花は見頃
水無川沿いの道へ出てみると、その名の通り、川にはほとんど水が流れていない。秦野といえば名水である。山や丘陵に囲まれたこの地は、豊潤な湧水に恵まれており、市内には水汲み場が点在している。車を持たない我が家も、友人が水汲みに行く際に声をかけてもらい、便乗する形で、秦野の水をコーヒーや料理に使用している。
味に関して言うと、やはり名水を謳うだけあって、そんじょそこらの水とはわけが違う。だいぶ前から秦野へ水を汲みに行っている友人に聞くと、水汲み場へは色々な人がやって来るらしく、中には喫茶店のマスターもいるのだとか。そんな湧水の豊富な町のメインの河川に水が流れていない。なんとなく腑に落ちない。調子に乗って湧水取り過ぎなんじゃないのか、みんな(自分含む)。
