結局、この日の注目組では、3人合わせて9つのバーディを目撃することができた。そんなナイスプレーの目白押しが、私自身のゴルフの参考になったかどうかは定かではないが、とにかく目の保養になったのは間違いのないところだ。
充実の18ホール従軍観戦を終えると、丁度昼飯どきとなっていたので、ギャラリープラザで腹ごしらえを決め込む。昼食は、ほとんど迷うことなく、出店していた資生堂パーラーの「国産牛煮込みカレーライス」(1,300円)をチョイス。

資生堂パーラーのカレー-平床大輔撮影
生ビール(700円)も併せて購入し、休憩中のギャラリーで賑わうテント内に場所を確保。カレーはハヤシとカレーの中間のような、如何にも銀座の洋食という感じの味で、個人的にはもう少しスパイシーな方が好みだが、これはこれで美味い。
カレーを食べ終え、キンキンに冷えた生ビールのおかわりをゲットすると、持参したラップトップを取り出し、テント内でこの原稿の下書きをパタパタと書き始めつつ、午後の観戦に想いを巡らす。
午後はベテラン・木戸愛選手の組について回る
午後は、12時53分に10番ホールをスタートした”木戸愛”選手の組が気になっていた。木戸選手はYouTubeの動画などで見せるその人柄から、かねてより応援していた選手であり、この大会は初日を2アンダーでラウンドして上位に着けていたのであるが、35歳とベテランの域に達しつつある彼女が、約13年ぶりの優勝を目指してどのようなプレーをするかには、大いに興味を惹かれていたのである。
ただ、生ビールをおかわりしている間に、数ホール先へ進んでしまったので、ここは18番ホールのグリーン横にある屋根付きのスタンドで定点観測しながら木戸組を待ち、後半9ホールを従軍型に切り替えることにする。
この日の18番ホールは、ピンがグリーン前方に切られており、グリーン上であってもピンの奥へ乗せると、下りの難しいパットが残るため、ほとんどの選手がピンとグリーン手前のエッジの間の狭いエリアか、外してもグリーン手前のカラーかフェアウェイにボールを着弾させていた。縦距離のずれはあっても、左右のずれはほとんどないのである。うーむ、さすがプロと唸らされる。この辺は、定点観測の醍醐味である。
しばらくすると、お目当ての組がやって来た。木戸選手はここまで第2ラウンドを2アンダーでプレーし、通算4アンダーにスコアを伸ばしている。そんな彼女の第2打はグリーン手前のカラーへ。少し前にペ・ソンウ選手がチップインバーディを決めた位置だ。
しかし、木戸はそこからのチップショットを2メートルほどオーバーさせてしまい、返しのパーパットが入らず、この日初ボギーを叩いた。自分が積極的に観戦に加わったばかりに流れが変わったのではと、自意識過剰ながら、少し申し訳ない気がした。
何はともあれ、ここで18番の快適な観戦スタンドに別れを告げ、再び従軍型ギャラリーとして、900円でお茶と缶ビールを補充して1番ティへと歩を進めたのである。
結論から書くと、この後の9ホールは私にとって、かなり得難い観戦体験となった。
プロの神髄を見て「グッド・ラウンド!」と声をかける
まずもって、ギャラリーの数が逆の意味で凄かった。予選ラウンドの午後、最後から2番目にスタートしたこともあってか、私を除くと、この組に従軍しているギャラリーは5、6人ほどしかおらず、しかも、私以外は選手の知り合いか関係者と思われ、観戦体験がかなりパーソナルな次元になっていたのである。
そして、この日の後半の木戸のプレーが本当にソウルフルで、心が揺すぶられるほど素晴らしかった。よく英語圏のプレーヤーが、粘り強く耐え忍んでプレーすることを「グラインド」すると表現するが、木戸の後半9ホールは正にそんなプレーとなったのである。
前述の通り、18番をボギーとした彼女は、続く1番でも4メートルほどのパーパットを残すピンチを迎えるも、このパットをきっちり決め、連続ボギーを回避。そして、3番では2メートルほどある下りのボギーパットを残すという、外してダブルボギーとすれば、その後の2日間の流れにも影響しそうな危機とも言える場面に直面すると、このパットもねじ込む。
その後、木戸は1、2度あったバーディチャンスは決めきれなかったものの、何度かったあったピンチはことごとく凌ぎ、第2ラウンドは2バーディ、2ボーギーのイーブンパーでホールアウト。
熱暑のコンディションと、如何ともし難いゴルフの流れが精神的なタフさを強いるなか、終始、背筋を伸ばし、しゃんとした姿でフェアウェイを歩き、凛然とゴルフコース、そして恐らくは自分自身に挑む彼女の姿は、プロフェッショナルのアスリートとはどういうものかを体現していた。
