
選手用のリカバリープールもある‐永瀬和志撮影
アルバルクに関わる面々にとって、新アリーナへ移ることは感慨を呼ぶ出来事である。同チームにはこれまで強豪であるにも関わらず、アリーナ立川立飛や代々木第一体育館など本拠地が定まらずに転々としてきた歴史があるからだ。
Bリーグが急成長を遂げてきた理由の一端には、チームが各地域により深く根ざしながらその地域と住民の代表として活動をしてきたことが挙げられる。アルバルクの場合は東京という巨大都市を本拠とし、ホームアリーナを転々としてきたことでアイデンティティを築きにくくしてきた。そのことは、これまでその実力(Bリーグで2度、リーグ制覇をしている)と裏腹にやや印象が薄かったことにつながっているとしていいだろう。

昨シーズンは有明コロシアムなど複数会場でのホームゲームだった‐Journal-ONE撮影
今シーズンがアルバルク在籍5年目となる安藤周人は「ホームを転々としてきた中で、会場によって準備の仕方や移動時間とかが変わってくるので、(試合会場と練習拠点が)一緒になることで同じようなルーティンを何も考えずにできるようになる。その点はすごく助かります」と語った。
オーバル型の観客席で非日常を
アルバルクの躍動ぶりを観戦に訪れる、来場者にとってもトヨタアリーナは「非日常」を味わうことのできる場所となる。この箱がスポーツに特化した場所であることについては記したが、観る人たちにとっては試合が見やすく、よりコート上で行われる試合に没入できる仕様となっている。

全ての座席がコート中央を向く座席-永瀬和志撮影
トヨタアリーナの観客席の形状は楕円(オーバル)型が採用されている。この形状だと何が良いのかといえば、どの座席であっても席は円の中心にあるコートに正対した形となることだ。近年建設されたアリーナでも、ららアリーナ東京(千葉ジェッツ使用)やIGアリーナ(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ使用)のように一辺に観客席を設置しないU字(馬蹄)型を採用するところもある。その場所にステージを設置することでコンサート開催に対応しやすくするためである。
トヨタアリーナもステージを端に寄せた場所に設置することが可能であるそうだが、アルバルクの林邦彦球団社長によれば「オーバル型でのコンサートは一部の席がデッド(死角)になることもあって経済効果が低」くなる可能性がありつつも、客席が中心に正対しているのであればステージを中心に置くなど「いろいろ試すことができるんじゃないか」と話した。

ステージを中心に置いたコンサートもあり得る‐永瀬和志撮影
観客との一体感を演出
娯楽性にも力を入れている。際立つのはコート中央上部にぶらさがるセンターハングビジョンと、アリーナを2層に取り巻くリボンビジョンを使った演出の美しさだ。チームによれば2層のリボンは国内のアリーナでは初の設置だそうだ。とりわけ上層のリボンの幅は2mもあり、実寸の自動車を映すこともできるという。内覧会でも来場者はビジョンを体感したが映される画像は非常に精緻で美しく、かつリボンビジョンによって会場全体にもららされるダイナミックさが体感できた。

ダイナミックな演出を可能とするビジョン‐永瀬和志撮影
「ホスピタリティ」にも力を入れている。試合以外の時間も享受してもらうためだ。先述したようにBプレミアの使用会場ではスイートルームの設置がマストとなっている。他のアリーナでも部屋ごとにコンセプトを変えるといった試行を凝らしたものとした。トヨタアリーナの場合は、個室とテラスが一体となった「テラススイートルーム」が特徴的だ。スイートルームというと通常はアリーナの上層階に設置されるが、トヨタアリーナのテラススイートは4つの階層の2階層目に設けられている。

2階のテラススイートから見たコート‐永瀬和志撮影