トーベ・ヤンソンが描いた「ムーミン」の世界観
ムーミンバレーパークは、ムーミン物語の世界観の原点だ。そこには、フィンランドの作家・画家であるトーベ・ヤンソンが紡いだ、静かで奥深い物語世界がある。
1945年に発表された最初のムーミン小説から始まる全9作品。これらは、愛らしいキャラクターが活躍する児童文学である。しかし一方で、大人の心にも深く沁み入る哲学性も湛えている。
ムーミンの物語に流れるのは、冒険や事件よりも「生き方」そのものだ。
ムーミン一家は常に誰かを排除することなく、違いを違いとして受け入れる。孤独を愛するスナフキン、不安症なスニフ、繊細な心を持つニンニ──彼らは皆、不完全で、悩みを抱えながらも自分の居場所を見つけていく。
トーベ・ヤンソンは、戦争や社会の不安定さを経験した時代を生きた。その背景が「自由であること」「自分らしくあること」「他者に寛容であること」というテーマに色濃く反映されている。
ムーミン谷は楽園ではない。嵐も来れば、別れもある。それでも登場人物たちは、日常の小さな幸せを見つけ、季節の移ろいを味わいながら生きていく。その姿が、時代や国境を越えて、多くの人の心を掴み続けているのだ。

KOKEMUS(コケムス)」で出会う、作者トーベ・ヤンソンと住人たちの穏やかな佇まい—Journal-ONE撮影
東京から40分、自然に包まれたムーミンバレーパークへ
ムーミンバレーパークは、埼玉県飯能市、宮沢湖のほとりに広がる自然豊かな地に誕生した。
東京・池袋から西武線特急”Laview”を利用すれば、乗車時間は飯能駅までおよそ40分。都心からのアクセスの良さとは裏腹に、最寄りのバス停に降り立つと空気は一変する。湖と森が織りなす穏やかな風景が来園者を迎えてくれるのだ。
四季折々に表情を変える静かな宮沢湖。春には新緑、夏には深い緑陰、秋には紅葉、冬には凛と澄んだ空気が広がる。その湖畔に寄り添うように設計されたムーミンバレーパークは、アトラクション主体のテーマパークとは一線を画している。「自然と共に過ごす時間」そのものが体験価値となっているからだ。
園内を歩けば、視界を遮る高層建築はなく、聞こえてくるのは風や水、鳥のさえずりと自分の足音だけ。忙しい日常から少し距離を置き、物語の中に足を踏み入れるための「余白」が、ここには用意されている。ムーミンの物語の世界が大切にしてきた“静かな豊かさ”を、このロケーションが雄弁に物語っている。

飯能へと向かう「特急ラビュー」—Journal-ONE撮影
フィンランドの原風景と重なる「ムーミン谷」の没入感
ムーミンの物語が生まれたフィンランドは、国土の約70%を森林が占める。その中でも、湖や水域が約10%、およそ9万5,000もの湖を有する「森と湖の国」だ。
異世界ではないムーミンの物語の世界
トーベ・ヤンソンが描いたムーミン谷は、決して空想的な異世界ではない。現実の自然と地続きの風景であり、その原風景が、ムーミンバレーパークのロケーション選びに明確に反映されている。
宮沢湖の湖畔に広がるパーク全体は、北欧の自然を想起させる穏やかな空気に包まれている。加えて、その没入感を一段と深めているのが、”おさびし山”エリアの存在だ。
湖畔の平坦な道を抜け、徐々に起伏のある坂道へと足を進める。すると、少しずつ視界と感覚は大きく変わっていく。これは、山という立体的な構造が加わることで、風の通り方や木々の重なりが変化するからだ。加えて、足元の土の感触までもが変化し、自然を「見る」から「感じる」体験へと引き上げられる。
この緩やかな登り道は、ムーミンの物語における冒険の入口そのものだ。視界が少しずつ開け、振り返れば湖と森が広がる。その風景は、ページをめくるたびに世界が広がっていく原作の読書体験と静かに重なる。物語の中に入り込んでいるという感覚に包まれるムーミンバレーパーク。それは、こうした身体的な移動によって自然に醸成されていく。

埼玉県飯能市の宮沢湖。対岸にはムーミンバレーパークの豊かな森が広がる。—Journal-ONE撮影
ムーミンバレーパークの要所・おさびし山
山の上に現れるのが、”ヘムレンさんの遊園地”だ。森の中にひっそりと、しかし確かな存在感をもって現れるその場所は、まさに秘密基地。ブランコや遊具に目を輝かせ、子どもたちは思わず歓喜の声を上げるだろう。
















