点差はじわじわと広がり、トヨタ自動車アンテロープスも何とか打開を図ろうとする。しかし、ミドルエリアを固めるデンソーアイリスのディフェンスは益々強固になっていく。その結果、攻撃が単調になり、個々の1on1に頼る時間帯が増えていった。これは、彼女たちが望んだ形ではなかった。トヨタ自動車アンテロープスの理想は、ボールと人が連動し続けるオフェンスだ。しかし、疲労と焦りが、その連動を少しずつ奪っていった。
守備でも、スペースを突かれて失点を重ねる。後半、エース・髙田真希を抑え続けたにもかかわらず、虚を突かれたトヨタ自動車アンテロープス。もはやミラクルを起こす力は残っていなかった。
スコアボードの数字は、残酷なまでに現実を突きつける。残り時間が減っていくたびに、選手たちの目には、悔しさと同時に“終わり”への覚悟が浮かび上がっていった。

苦しい展開でも笑顔を見せた岡本(左)と金田-Journal-ONE撮影
涙の円陣と、敗者の誇り
静かに肩を寄せ合った“涙の円陣”
試合後、ベンチで円陣を組んだトヨタ自動車アンテロープス。指揮官も選手も、流れ落ちる涙を拭いながら互いの肩を抱いた。誰かが声を上げるわけではない。大きな叫びが響くわけでもない。ただ、静かに、しかし強く、彼女たちは輪になった。
リーグ戦を首位で終え、守って走るバスケットを貫き通したトヨタ自動車アンテロープス。しかし、初のファイナル進出を果たした選手が多い若いチームは、3年連続でファイナルに挑んだデンソーアイリスの“優勝への渇望”に最後は押し切られた。経験の差と言ってしまえばそれまでだが、その“差”を埋めるために、彼女たちは今シーズンを費やしてきたのだ。
大神HCは「今シーズン最もタフな試合だった」と語り、さらに「髙田、ソハナのミッドジャンパーが確実に入っていた。修正できない中で藪にスペースを与えてしまった。」と敗因を背負った。指揮官として、勝てなかった責任を自らの言葉で引き受ける。その姿勢は、選手たちにとっても救いであり、同時に来シーズンへの宿題でもある。

厳しい局面で山本に戦略を伝える大神HC-Journal-ONE撮影
山本麻衣が示した“矢面に立つ覚悟”と敗者の誇り
山本麻衣は、30分近い出場で2得点2アシストに抑え込まれた。彼女にとって、この数字は決して納得のいくものではない。試合後、「悔しい気持ちを何度も経験して優勝を勝ち獲ったデンソーをリスペクトする。」と語り、さらに「シンさん(大神HC)とはずっと一緒にやってきた。勝てなくて申し訳ない。」と涙を拭った。
その言葉には、自分自身への悔しさと、チームへの愛情、そして指揮官への感謝が入り混じっていた。彼女は、単なるエースではない。トヨタ自動車アンテロープスというチームの“象徴”であり、“顔”であり、“矢面に立つ覚悟を持った存在”だった。

山本は何度も涙を拭いながら前向いて思いを語った-Journal-ONE撮影
美しい師弟愛──そしてアンテロープスの未来へ
師弟が歩んだ4年間と、別れに宿る想い
この試合を最後にチームを離れる決意をした山本麻衣。大神HCは、「私は山本のファン。」と言い、彼女との4年間を振り返った。現役最後の年にアーリーエントリーで入団してきた山本。アシスタントコーチ時代には3×3で世界と戦い、ヘッドコーチとして初めてファイナルに出た時には「山本と心中する。」とまで言い切り、信頼を寄せた。
二人の関係は、単なる“選手と監督”という枠を超えていた。もちろん、そこには厳しさもあった。練習中、大神HCは誰よりも山本に高いレベルでのハードワークを課した。なぜなら、彼女にはそれだけのポテンシャルがあり、高いレベルで成功できる選手であると信じていたからだ。
「アンテロープスの選手全員が好きですが、私は山本のファン。彼女を導けるようにコーチングしてきた。4年間感謝しているし、4年間一緒にいて良かった。ここで勝って海外に送り出したかった…でも、この敗戦を糧にしてくれるだろう」。
その言葉は、師としての誇りと、別れの寂しさと、未来への期待が交差するものだった。極めて個人的な感情が入るが、それはチーム全体にも共有される感情だった。すぐ横でその言葉を聞いていた山本は、静かに涙を拭っていた。なぜなら、山本もまた、大神HCに対して同じ感情を持っていたからだ。























