名門校にある普通の部活動
県の農林業を支える高知農業
高知農業の野球部は、名門校でありながら日常は驚くほど素朴で実直だ。
高知県の中央部、空の玄関口・高知龍馬空港がある南国市。その後免駅からほど近い場所に高知農業高校はある。校内には芝生広場やソテツが並び、南国らしい穏やかな空気が漂う。
創立1890年の歴史を持つ同校は、県内の農林業を支える人材を長く育ててきた存在だ。野球部のグラウンドは本校舎から徒歩3分、田んぼとビニールハウスに囲まれた平地にあり、部室は隣接していない。道具も小さなコンテナにぎっしりと収められている。
授業を終えた部員たちは屋外で着替え、夕暮れの風を受けながら練習へ向かって行った。センバツ初出場を経た今も、環境は決して恵まれていない。しかし、この素朴で実直な日常こそが、高知農業高校野球部の強さの源であり、地域に根ざした“農業校の野球”を形づくっている。

南国ムード漂う高知農業高校‐Journal-ONE撮影
地域に根ざし、25人体制で歩み始めた“農業校の野球”
高知農業の25人体制は、地域とともに歩む部の姿勢をより鮮明にしている。
センバツを18人で戦い抜いた高知農業高校には、春の新入生7名が加わり、部員は計25人となった。3年生11人、2年生7人、1年生7人というバランスの良い構成だが、下坂充平監督は「強豪のようにスカウトする余裕はありません。」と率直に語る。
それでも、人数が増えたことで練習の幅は広がり、紅白戦も可能になった。部の基盤を支えるのは、地域との連携だ。近隣校と協力し、秋には中学3年生向けの野球教室を開くなど、地元の野球人口を守る取り組みを続けている。
少子化と人口減少が進む高知で、野球部の灯を絶やさないための地道な活動だ。甲子園を経験した18人の背中を追い、7人の新入部員が泥にまみれながら白球を追う姿は、農業校らしい実直な未来を静かに照らしていた。

地域に根付いた活動を続ける下坂監督-Journal-ONE撮影
全国レベルへ押し上げた“選手が考える練習”
実戦で得た課題を磨く、実直な守備練習の午後
高知農業の守備練習は、甲子園で得た課題を一つずつ確かめるような密度を持つ。
この日の練習メニューは、徹底した守備練習だった。内外野に分かれ、基本の捕球と送球、カットプレー、連係確認までを一つずつ丁寧に積み上げる。約2時間、無駄な声も動きもない。
下坂監督は「練習メニューは昼休みにキャプテンから選手の要望を聞いて決めます。」と話す。甲子園で強豪校と対峙した18人が感じた課題を、25人体制となった今、全員で共有し克服していくためだ。
外野ノック打ち続けるのは、森澤樹紀部長だ。高知大学硬式野球部出身の森澤部長は「一緒に体を動かすことで、選手の感覚に寄り添える。」と汗を拭う。下坂監督と共にノックを打ち続ける姿は、恵まれた環境ではないからこそ“人の力”で部を支える高知農業らしさそのものだった。

下坂監督と共にノックに汗を流す森澤部長-Journal-ONE撮影
限られた環境を工夫で乗り越える“実戦力の時間”
少し日が高くなり始めた初夏の夕暮れ。午後6時になると一度練習を止め、全員で白米中心の夕食をとるのが高知農業の習慣だ。
「空腹だと動きも集中力も落ちますから。」と下坂監督。OBが営む田んぼで収穫された米が、選手たちの確かなエネルギー源になっている。
食後は日没までケース打撃へ。走者とコーチャーが入り、打撃投手は前方から速球を投げ込む。加えて、打者は状況に応じた打球を考え、走者は得点差や守備位置を踏まえてギリギリの判断で次の塁を狙う。
照明設備も室内練習場もない。それでも限られた時間で最大限の実戦力を磨くため、工夫を重ねるのが高知農業の野球だ。
25人体制だからこそ、1年生もすぐに上級生と同じグラウンドに立ち、甲子園で露わになった“足りないもの”を肌で感じ取る。初出場の経験は、こうして確かに後輩へと受け継がれていく。

走攻守で真剣勝負が行われた練習-Journal-ONE撮影
灯るカンテラの下──“最後の一押し”を求めて
やがて、完全に日が落ちると、グラウンドにはカンテラの淡い灯りがともる。ここからが高知農業の“課題練習”の時間だ。














