神戸弘陵学園・93人の夏が始まる
全国屈指の練習環境と文化
神戸弘陵学園は、女子高校野球の中心に立ち続ける名門だ。 その93名が迎える最後の夏を追った取材は、梅雨空の下で始まった。通常なら練習の中止や縮小もあり得るコンディション。しかし、神戸弘陵学園の練習は、終始熱を帯びていた。
選手、コーチたちが土を入れ、使えるスペースを見極めながら整備を進める。「できる場所で、できることを最大限に」その姿勢がチームの文化として根づいている。
グラウンドの一角が使えないなら、別の場所を使う。雨が残るなら、雨に合わせた練習をする。その柔軟さと前向きさが、全国屈指の強豪校であり続ける理由だと強く感じた。
そして、93名の部員たち。女子高校野球界ではもちろん、男子の高校野球部にも負けない部員数を誇る神戸弘陵学園は、この日も全員が効率的に動いていた。
広いグラウンドのあちこちで、まるで“同時進行の物語”が展開されているようだった。

部員93人が同時に多彩な練習に取り組む‐Journal-ONE撮影
神戸弘陵学園を支える3年生の声と覚悟
まずは3箇所に分かれてのフリー打撃。打球音が雨上がりの空気を切り裂き、次々と鋭い打球が飛んでいく。
それが終わると、間髪入れず3箇所でのバント練習へ移行。「一球で決める」。そんな緊張感が漂い、選手たちの集中力は一切途切れない。
同時に外野の一角では、状況を設定した素振りが行われていた。走者がいる場面、カウントが深い場面、初球から仕掛ける場面。ただ振るのではなく、“試合の中でどう振るか”を徹底的に叩き込む。
加えて、投手陣は別メニューでバント処理の反復。濡れた土の上でもステップが乱れないよう、細かい動作を繰り返す。バントは女子高校野球の試合においても重要な局面における戦術だ。そのピンチを一瞬でチャンスに変えることができるか、それともピンチを広げるか。この反復練習に真剣に取り組む選手たちの表情からは、現実のプレーを想像させるかのような真剣さが見て取れた。
さらには捕球したボールを素早く握り替え、正確に送球する練習も続く。これは、和歌山大学硬式野球部が実践している“和大メソッド”と呼ばれる練習のひとつだ。
「細部の精度が勝敗を分ける」。石原康司監督の哲学が、選手たちの動きにそのまま表れていた。
さらに、防球ネットで仕切られた空間では捕球練習とティーバッティングが同時進行。打つ音、捕る音、声を掛け合う音——。それらが重なり合い、神戸弘陵学園のグラウンドは“野球の音”で満たされていた。

ティー打撃で好調な姿を見せた核弾頭の福田稟-Journal-ONE撮影
3年生の捲土重来——敗北が彼女たちを強くした
それぞれのユニットを仕切るのは3年生たちだ。最後の夏を迎える彼女たちの声は、普段よりも一段強く、そして深い。緊張感がありながらも、どこか頼もしさが漂う。「この夏を自分たちの手でつかむ。」その覚悟が、練習の空気そのものを変えていた。梅雨の湿気を含んだ空気の中で、神戸弘陵学園は確かに“夏のチーム”へと仕上がりつつあった。
今年の3年生はユース大会でも選抜大会でも、優勝を果たすことができなかった。しかし、その悔しさは、彼女たちの記憶に影を落としながらも、確実に前へと進む力に変わっている。
練習を仕切る3年生たちの声は強く、動きは迷いがない。最後の夏を迎える者だけが持つ覚悟が、グラウンドの空気を引き締めていた。

素振りユニットで鋭いスイングを見せる4番の島本そな-Journal-ONE撮影
神戸弘陵学園・石原監督の“静かな闘志”と哲学
神戸弘陵学園の日本一基準
ネット裏に立つ石原監督は、93名の選手たちの動きを一望しながら、静かに、しかし確かな熱を帯びた眼差しを向けていた。
その姿は、ただ練習を見守る指揮官ではない。週末に控える練習試合へ向けた準備と、選手たちのさらなる成長を促すための観察。この二つの基軸を同時に持ちながら、全体を俯瞰する名将の姿だった。
選手たちの動きの質、声の強さ、ユニットごとの空気。それらを細かく拾いながら、石原監督は手元のホワイトボードに貼られた全選手のネームプレートを静かに動かしていく。
今の選手たちがどこまで成長しているか、夏の大会までにどこまで成長できるのか。93人全員に目を向ける石原監督。その一方で、週末の試合でどうチームを仕上げていくべきか。その両方を見据えた“準備と育成の同時進行”だった。














