「加えて、選手としてトレーニングする環境は本当に整っているなと思います。」
スペインではパデルが単なるスポーツではなく、人と人をつなぐ文化になっている。
「練習が終わった後も、みんなでレストランに行ったり、カフェで試合を観たりするんです。パデルを通じてコミュニティができていて、それがすごく印象的でした。」
日本ではまだ競技人口が限られている。だからこそ、佐藤千文選手はスペインで見た光景に未来のヒントを感じている。
「日本も今後そういう環境が増えていったらいいなと思います。」
──スペイン修行で得た最大の学びは何だったのでしょうか。
「言葉ですね。スペイン語を勉強したことで、文化も一緒に学べたと思っています。」
パデルを通じて見えてきたのは、プレースタイルの違いだけではなかった。
「スペインの選手は感情をすごく表に出します。試合中も叫んだり、仲間とコミュニケーションを取ったり、自分の気持ちを言葉にすることが多いです。」
対して日本人は感情をあまり表に出さない。
「日本人は我慢強いですし、静かにプレーする人が多いですよね。そういう文化の違いが、プレーにも影響していると思います。」
技術だけではない。言葉や文化が競技スタイルを形作る。それは海外に飛び出したからこそ得られた学びだった。
直面した最大の敵を克服
──海外選手と日本選手の違いをどこに感じますか。
「もちろん身長が高い選手多いです。それ以外では特に女子選手は肩が強いなと思います。」
パデルではスマッシュやボレーが試合を左右する。その場面で身体的な強さを感じるという。
「海外の選手は苦しい体勢からでも打てますし、ボールの威力もあります。肩や背中の強さは日本人との違いとしてよく感じます。」
しかし、その差を知ったことはマイナスではなかった。世界との差が明確になったからこそ、追いかけるべき目標が見えた。
──一番苦しかった遠征を教えてください。
「アカデミーに入った時ですね。周りに日本人が誰もいませんでした。」
家族も友人もいない。母国語も通じない。
「日本語を話せる人もいなかったので、孤独を感じることはありました。」
海外挑戦というと華やかに聞こえる。だが実際には、孤独との戦いでもある。
「やっぱり同じ国の人じゃないと共有できないこともありますから。」
その時間を乗り越えたからこそ、佐藤千文選手は今の強さを手に入れた。
実感したパデルの素晴らしさと手応え
──逆に印象に残っている大会や国はありますか。
「インドネシアですね。」
その理由は意外なものだった。
「ローカル大会でもすごくたくさんの観客が集まるんです。大会はライブ配信もされますし、会場には大きなモニターもあります。本当に盛り上がっています。」
大会の規模だけではない。スポーツを楽しむ熱量がそこにはあった。
「たくさんの人が試合を観て応援してくれて。ああ、スポーツってこういうものだなと思いました。」

様々な試練を乗り越えながらも、海外でのパデル生活を充実させているという-佐藤選手提供
──世界で戦えると感じた試合や瞬間はありますか。
「バルセロナで大会に出た時ですね。」
世界ランキングにつながるFIP大会。相手はスペインの有望な若手選手たちだった。
「その選手たちに勝てたことがあって。スペインで勝てたことはすごく自信になりました。」
海外へ飛び出した意味。努力してきた価値。それらを実感できた瞬間だった。
佐藤千文選手の素顔に迫る
コートの上では日本代表として戦う佐藤千文選手。しかしコートを離れれば、一人の女性としての顔が見えてくる。
試合への臨みかた
──試合前に必ずやることはありますか。
「実はルーティンを作るのがあまり好きじゃないんです(笑)。これをやらなきゃいけない、みたいなのが自分にはあまり合わなくて。」
トップアスリートには珍しい答えだった。ただ一つだけ守っていることがある。
「試合の1時間前には会場に入ることです。」
焦らず、自分のリズムを作る。それだけは徹底している。
一方で、トップアスリートはメンタル面での整えかたはどうだろうか。
──緊張した時はどうやって切り替えますか。
「結構緊張するタイプなんです(笑)。」
そんな時、支えになるのはペアだ。パデルはダブルスしかないため、必ずパートナーがいる。
「試合前に『こう戦こう』『こういうプレーをしよう』って話します。そうしていると落ち着いてきます。」
シングルスにはないダブルス競技ならではの魅力でもある。
佐藤千文選手のオフの過ごし方
──オフの日は何をして過ごしていますか。
「語学の勉強をしたりします。」
スペイン語と英語。世界で戦う上で欠かせないスキルだ。
「英語はもっとできるようになりたいですね。」
また旅行も好きだという。

















