プロ野球の試合のように、野次を飛ばす柄の悪いおじさんなど皆無で、全体的な雰囲気は至ってピースフル。近所の子供たちであろうか、少し前の席では小学生と思しき女の子3人組が熱心にフィールドに見入っている。競技振興の観点から、こども無料はナイスアイディアである。

試合前にはご当地ゆるキャラも出て盛り上げた-JDリーグ提供
金髪の豪速球投手とピッチャーズマウンド
試合は2回表、NECの攻撃。マウンド、もといピッチャーズサークルでは大柄な金髪の投手が豪速球を投げている。バックスクリーンの電光掲示板を見ると、”P.バウター”とある。入手した手元のパンフレットで確認すると、彼女はアラナ・バウターで、サウスカロライナ大出身、24歳の新戦力であることが判明。
バウターは他の選手と違い、キャップを被らず、鉢巻にフェイスガードという出立ちなので、その体格も相俟って、女武者という感じがして、その立ち姿はとても凛々しい。ソフトボールは投手板からホームプレートまでの距離が近いので、バウター、迫力満点である。

先発したデンソーのアラナ・バウター投手‐JDリーグ提供
ここでふと、ピッチャーズサークルの後方に、本来であれば存在すべき野球用のピッチャーマウンドがなくなっていることに気がつく。当然のことながら、ソフトボールの内野に野球用のマウンドなど無用の長物なので、削って平らにしたのであろう。
ただ、この野球場自体借り物である以上、原状回復が求められるはずで、全日程終了後、またマウンドを拵えなければならないのではあるまいか。JDリーグで野球場を使用する場合、恐らく毎回、マウンドを削って作り直すという作業は必要になるので、もしかしたら、リーグとしては、そんなマウンド作りなど慣れっこになっているのかもしれないが、素人としては、その辺のところが気になる。
あるいは、スタッフにマウンド作りの名人がいるのかもしれないし、大きなマウンドの型があり、それに土を埋めてひっくり返すと、瞬時にマウンドが出来上がるシステムなんかがあるのかもしれない。
初めてのソフトボール観戦で気になること
この他、初めて実物を見たソフトボールのフィールドについて私見を述べると、その第一印象はかなりコンパクト。野球場を使用する場合、常設の外野フェンスの前方に仮設のフェンスが設置されるのは、オリンピックなどで見て知っていたが、実際に見ると、想像よりもフェンスが近い。
両翼には67mの表示があり、仮設フェンスの向こう側では、第3試合に出場するものと思われる選手たちが、練習やトレーニングに勤しんでいる。当然、塁間も野球より短く、前進守備のときなど、三塁手はかなり本塁に近い位置で守っており、打席の相手が右のプルヒッターだとかなり怖そうだ。ソフトボールのホットコーナーは、ベリーホットなのである。
また、ダグアウトは球場に備え付けのものではなく、ファウルグラウンドに仮設の柵で囲って作られたものを使用。その隣には仮設のブルペンがあり、リリーバーの投球練習を間近で見ることがきる。ダグアウトもブルペンも観客席に対して開けっ広げになっているため、観客としては試合を通して全選手の動向が視認できるのが面白い。

せり出したファウルグラウンドはベンチの選手が良く見える‐平床大輔撮影
そして、ソフトボールにはピッチクロックがあるので、試合展開がとても早い。コンパクト&スピーディでトランスペアレント、それがソフトボールの特徴のようである。なお、意外にも審判員は全員男性だった。
試合の方は完全に投手戦となり、5回までスコアボードに「0」が並ぶ展開に。ここで、補充のため、一旦スタジアムの外へ出る。チケットの半券を見せれば再入場可能なのである。ビール片手にいそいそと場内に戻ると、今度はデンソーの三塁側スタンドに場所を確保する。近くでは、デンソーの関係者なのかファンなのか、男性陣が野太い声で熱い声援を送っている。
そして、真横から見るバウターが断然良い。投球に入る前の直立した姿勢が綺麗で、投球フォームそのものはシンプルかつ美しい。いわゆる機能美というやつである。ただ、このシンプルさ故、打者としてはタイミングが取り易いのか、ちょいちょいクリーンヒットを許し、時折ピンチを迎えるのだが、重要局面では力で相手をねじ伏せる投球を見せる。
その辺が、また何とも痛快。それに、際どいゾーンに投げ込んでボール判定されたときの仕草がオーバーアクションで、いかにもアメリカンな反応に人間味を感じ好感が持てる。
