石碑をかすめて園内へ踏み入ると、頭上を覆うのは、まっすぐに天を突くメタセコイアの並木だ。羽毛のように柔らかい針葉を纏いながら、ひたすら垂直に伸びていくその佇まいに、思わず見上げる首の角度が深くなる。この木立の連なりの奥、雑木林として残るエリアには、ニュータウン開発以前からこの丘陵に自生していたというコナラやクヌギ、アベマキ、そしてアカマツまでもが入り混じって育っているのだという。整備された公園でありながら、足元にはどこか、開発前のこの土地がそのまま眠っているような気配が漂っていた。
郊外の高台に鉄道を敷き、緑豊かな住宅地を育てる。かつて阪急電鉄が神戸線沿線で育んだというその思想が、この千里の丘にもそのまま流れ込んでいるのだと知ると、頭上のメタセコイアの並木さえも、少し違って見えてくる。

牛ヶ首池の小径は左右に分かれていた。本能的に左へ進んだ先で、思いがけない出会いが待っていた。—Journal-ONE撮影
中央に広がる牛ヶ首池のほとりに出ると、水面のほとんどが緑色の浮草にびっしりと覆われ、まるで陸地の続きのような不思議な光景が広がっていた。池畔に立つラクウショウの根元からは、地中からシュノーケルのようにいくつもの気根が突き出ている。木々もまた、この湿った土地に呼吸するための工夫を凝らして生きているのだと知り、しばし足を止めて見入ってしまう。
池の手前で、小径が左右二筋に分かれていた。理由はわからない。ただ本能的な直感に導かれるまま、左側の木陰の道へと足を踏み出す。
強烈な白日の光と、樹木が作る漆黒の影。強いコントラストのせいで一瞬目が眩み、視界が途切れる。だが、目を凝らした緑の奥深くに、ぽっと温かなオレンジ色の光が点灯しているのが見えた。

強い陽射しと深い木陰の境界に現れたBIRD TREE。森の中で偶然見つけた隠れ家のようだった。—Journal-ONE撮影
「――カフェだろうか」
パークカフェ「BIRD TREE」、光に導かれて

千里南公園の緑に包まれたBIRD TREE。入口では流木で作られた馬のオブジェが来訪者を迎えてくれる。—Journal-ONE撮影
吸い寄せられるように光の元へ近づいていく。深いダークトーンの片流れ屋根が、公園の緑に対して静かに、しかしシャープな輪郭を刻んでいた。入り口の脇には、金属ではなく流木そのものの曲線を組み上げた馬のオブジェが佇んでいる。軒先からはいくつもの裸電球がストリングライトとなって垂れ下がり、まだ日の高いこの時間には眠っているその光が、日が落ちる頃には温かな金色に灯るのだろうと想像がついた。ウッドデッキに面したテイクアウト用のカウンターには、「PIZZA」とチョークで手描きされた黒板が立てかけられている。100時間かけて熟成させた生地を使う窯焼きピッツァが、この店の看板だという。

外の景色を楽しみながらも、暑さや風はやわらげられる。BIRD TREEらしい心地よいテラス空間。—Journal-ONE撮影
テラスを囲む透明なカーテンは、真夏の酷暑や激しい風を遮りながらも、外の光と豊かな緑の景観だけをそのまま客席へと透過させている。
案内されたメニューの筆頭に、この店の名物だという一杯があった。「ナイトロアイスコーヒー」。水出しでゆっくりと引き出した薫りと甘みに、窒素ガスを加えてまろやかな口当たりに仕上げるのだという。運ばれてきたグラスの中では、注がれた瞬間からきめ細かな泡がゆっくりと立ち上り、黒々とした液面にクリーミーな層を作っていく。

牛ヶ首池の奥で見つけたBIRD TREE。暑さに追われるように飛び込んだ店で、この一杯に救われた。—Journal-ONE撮影
一口含むと、強張っていた肩から、すっと力が抜けていくのが分かった。たかが一杯の珈琲、されど一杯の珈琲である。冷えた飲み物を口にし、緑を映すガラス越しの静かな空気に包まれるうち、灼熱の路上で途切れかけていた気力が、身体の底からゆるやかに蘇ってくるのを感じた。













