物語の中へ、さらに深く
アンブレラスカイの下を抜け、郵便局で旅の記憶を一枚のハガキに託したあと、私は改めて湖畔の道を歩き始めた。
「全部見てから、コケムスに入ると繋がる」
羽毛田さんの言葉が、頭の片隅でリフレインしている。その「すべて」とは何か。どう「繋がる」のか。答えはまだわからない。けれど、その答えを求めて、私は物語の奥へと進んでいく。
「ムーミン屋敷」お預けで高まる期待値
湖畔に沿って道が続いている。
その先に、青い屋根の円筒形の建物がすまし顔で立っている。ムーミン屋敷である。挿絵からそのまま抜け出してきたような愛らしい姿に心惹かれるが、今はまだお預けだ。
羽毛田さんの案内によれば、まずは湖を巡って物語の世界を体感するのが先決らしい。何事にも、美味しいものを最後にとっておくような「正しい順序」というものがある。

せせらぎの向こうで新緑を背負う「ムーミン屋敷」—Journal-ONE撮影
「海のオーケストラ号」:冒険の舞台に入り込む
道を進むと、建設中のような建物が見えてきた。いや違う。その周囲に帆のような布が張られた柱が組み合わされていて、全体で造船所のような雰囲気を醸し出している。これが「海のオーケストラ号」である。ムーミンパパが若い頃、友人たちと冒険に出た船だ。

帆布のような布で覆われた巨大な建物、「海のオーケストラ号」。—Journal-ONE撮影
中に入ると、まず待機室に案内される。壁一面に、船の設計図や図面がところ狭しと貼られている。発明家フレドリクソンのアトリエのような空間だ。彼の肖像画もあり、ムーミンパパが書いている「思い出の記」に基づいた世界観が広がっている。
冒険前夜の、あの静かな熱狂と、指先の震えるようなワクワク感が、この部屋の空気には満ち満ちていた。

ムーミンパパが若き日に友人たちと制作した船の緻密な設計図が並ぶ「海のオーケストラ号」の展示エリア—Journal-ONE撮影
本物の水しぶき!物語は絶頂へ
そして、シアターへ。これは体感モーフィングシアターと呼ばれる施設で、約15分間、若き日のムーミンパパたちの冒険を追体験できる。
座席に座ると、室内が暗くなる。前方の巨大スクリーンだけでなく、左右の壁面、そして足元の床一面にも映像が投影される。船が空を飛んだり海に潜ったりする様子が、立体造形物と映像を組み合わせた技術でリアルに再現されてゆく。
物語が佳境に入ったその時――不意に、本物の水しぶきが頬を打った。風が通り抜ける。思わず声を上げそうになった。ただ座って映像を見ているだけではない、この臨場感。パパたちの冒険が、本当にここで繰り広げられたような気がしてくる。

巨大スクリーンを前に、若かりし頃のムーミンパパたちを乗せた潜水艦が現れる—Journal-ONE撮影
「おさびし山」のささやかな試練
物語の海を泳ぎ切り、意気揚々と出口の扉を押し開けた途端、眩しい光が目に飛び込んでくる。しばらくは、穴から引きずり出されたモグラのごとく少しずつ歩き始めた。しばらくすると、木々に囲まれた山が見えてきた。「おさびし山」である。
もっとゴツゴツした険しい岩山を想像していたが、目の前にあるのは穏やかな緑の山だ。しかし、侮ってはいけない。いざ登り始めると、確かな傾斜が足腰にじわじわと堪えてくる。少し息が上がる。物語の世界に浸りながらも、己の運動不足という残酷な現実を思い知らされる羽目になるのだ。

木漏れ日のなか、一歩ずつおさびし山の山道を登る—Journal-ONE撮影
「ヘムレンさんの遊園地」が待っていた
ふうふう言いながら頂上に着くと、立派な木製の遊具が鎮座していた。「ヘムレンさんの遊園地」だ。ジャングルジムのような造形で、北欧の伝統を受け継いだデザインなのだという。きのこの傘のような休憩所や、好きに絵を描ける黒板まである。

「おさびし山」エリアにある「ヘムレンさんの遊園地」。—Journal-ONE撮影













