「週末は家族連れでいっぱいになるんですよ」と羽毛田さんが教えてくれた。物語の中でヘムレンさんが子どもたちに遊園地を開放した場面が、この現実に再現されているわけだ。さぞや賑やかで平和な光景だろうと想像しつつ、こちらはひとまず、きのこの下でどっこいしょと腰を下ろし、乱れた呼吸を整えさせてもらう。
「スナフキンの前」で荷物を下ろす
おさびし山を下り、しばらく行くとテントが見えた。スナフキンのテントである。そして、まるで「まあ、お座りなさいな」とでも言いたげに、誘い文句のようなベンチが置かれている。スナフキンと向かい合うようにどっこいしょと腰を下ろして、焚き火の跡をぼんやり眺める。
「大切なのは、自分のしたいことを、自分で知ってるってことだよ」
スナフキンの名言が、頭の奥をかすめた。ここは、そういう場所なのだ。立ち止まって、考える場所。何かに追われるように生きている都会の日常から離れ、焚き火の残り火を前に、自分と向き合う。それが、この場所の意味なのだろう。

ベンチに座ればスナフキンの像と薪を囲むことができる—Journal-ONE撮影
「灯台」に漂うパパとママの日常
スナフキンテントを後にし湖畔の道をゆけば、灯台が見えた。湖に突き出た岬の先に立つ、白い「灯台」である。
「ムーミンパパは海に行きたがるんですよ」と羽毛田さんが教えてくれた。
「で、ムーミンママは花が好きで、特にバラが好きなんですけど、海には花がないでしょう? だから寂しくて、灯台の壁にペンキで花を描いたんです」
「灯台」の1階を覗き込むと、壁に花の絵が描かれていた。バラ、キンセンカ、パンジー、しゃくやく、りんごの木。ムーミンパパが「バラだね」と声をかけると、ムーミンママは「ちがいますよ、あれはしゃくやくよ」と不満そうに答える――そんな夫婦のやりとりが、目に浮かぶ。
ムーミンママの孤独を思うと、どこの世界も夫婦というものは一筋縄ではいかないのだと、妙に胸に迫るものがある。ムーミンパパが海を求め、ムーミンママが花を求める。その距離を、花の壁画が埋めようとしている。けれど、埋まらない部分も、きっとある。

ムーミンパパが家族と移り住んだ、白い「灯台」。—Journal-ONE撮影
遠くて近いフィンランド。水浴び小屋と宮沢湖
灯台を後にし、湖の対岸に目を向けると、湖畔に慎ましい木造の小屋を見つけた。
「あれが水浴び小屋です。ムーミンパパの作った水浴び小屋で、夏の間にムーミンたちは、泳いだり、釣りをしたり、ここでひと休みしたりします。冬には、別の住人・トゥーティッキの住処となります。トゥーティッキはトーベ・ヤンソンのパートナーであるトゥーリッキ・ピエティラがモデルなんですよ。」と羽毛田さんが指さす。
冬の物語に登場するトゥーティッキの住処でもあるこの小屋には、トーベ・ヤンソン自身がパートナーのトゥーリッキ・ピエティラと暮らしたクルーヴハル島での記憶も重なっているのだろう。

宮沢湖の桟橋の先にある水浴び小屋 © Moomin Characters™
歩いた距離が「コケムス」で意味を持つ
船も、山も、テントも、灯台も、すべてが物語の舞台である。けれど、それが全体の中でどういう意味を持つのか、パズルのピースはまだバラバラのままだ。
「全部見てからコケムスに入ると、『あ、ここ行った』って繋がるんですよ」と羽毛田さんが笑う。
なるほど、手の込んだ伏線である。今しがた歩き回り、息を切らし、水しぶきを浴びたこの現実の体験が、後で展示を見たときに一つに結びつく。この粋な仕掛けにまんまと乗りながら、私は物語の「解法」を求めて、次なる扉へと向かうのである。

北欧の雰囲気を感じさせるモダンな3階建ての展示施設、KOKEMUS(コケムス)。—Journal-ONE撮影
「ムーミン屋敷」:寛容のドアと、それぞれの居場所
そして、いよいよ、「ムーミン屋敷」へ向かった。
青い屋根の円筒形の建物は、外から眺めるだけでも十分に愛らしいが、一歩中へ足を踏み入れれば、その細部の作り込みには、ただただ息を呑むばかり。入口は地下からだ。階段を下りて、薄暗い地下室に足を踏み入れる。













