
色とりどりの花々に囲まれ、新緑の中にすっくと立つ、「ムーミン屋敷」—Journal-ONE撮影
地下から始まる「ムーミン屋敷」
「地下室は貯蔵庫なんです」とスタッフの案内が始まった。
「ここには、種から生える白い生き物が住んでいるんですよ」
入り口の隅の覗き窓からは、小さな白い影が揺れていた。ニョロニョロである。種から生まれ、奇数で動く不思議な生き物だ。体が電気を帯びていて、地下室の照明を発電しているのだという。よく見ると、あちこちにいる。群れている。静かに、揺れている。なんとも不気味で、なんとも愛らしい、妙な生き物である。
地下室には、食料や道具が並んでいる。リンゴもある。「ムーミン屋敷の全部の階にリンゴがあるんです」とスタッフが教えてくれた。探してみると、たしかにあちこちにリンゴが隠れている。遊び心だ。

生活感あふれる小物たちが所狭しと並ぶ、ムーミン屋敷地下_貯倉庫 © Moomin Characters™
「ムーミン屋敷」の合理的な茶目っ気
階段を上がって1階へ。ダイニングルームだ。大きなテーブルがあり、その周りに椅子が並んでいる。そのうちの一つが、やけに高い。よく見ると、本が6冊、積み重ねられている。
「リトルミイの椅子なんです」とスタッフが笑って言った。
なるほど、と思った。小さなミイが、みんなと同じ目線で食事ができるように、本で高さを出しているのだ。なんとも合理的で、かつ茶目っ気たっぷり。リトルミイらしい茶目っ気たっぷりの工夫である。

リトルミイの声が聞こえてきそうな、「ムーミン屋敷」1階の大きなテーブル。ムーミン屋敷1F_ダイニングテーブル① © Moomin Characters™
「ムーミン屋敷」を温めるストーブ
壁には堂々たるタイル張りのストーブ。ムーミンパパが、このストーブの形に惚れ込んで屋敷を建てたというのだから、男のこだわりというものは、時に突拍子もない。
けれど、その無骨な箱庭に「色」を添えるのは、やはりムーミンママの仕事である。貝殻や花を愛でる彼女が、壁のクロスに林檎の刺繍をほどこし、殺風景な空間を「家庭」へと変えていったのだ。

ムーミンパパお気に入りの立派なストーブが構える1階。ムーミン屋敷1F_ダイニングとタイルストーブ © Moomin Characters™
「ムーミン屋敷」の静かな献身
テーブルの上には、ムーミンママのバッグが置いてあった。黒いハンドバッグである。中を覗くと、お腹の薬、キャラメル、救急用品が入っている。
「ムーミンママのバッグは、みんなのために欠かせない大切なものを入れているんです。ムーミンママの優しさと、愛のこもったハンドバックなんですよ」
羽毛田さんが言っていた言葉を思い出した。そうなのだ。ムーミンママは、いつも誰かのために何かを用意している。お腹が痛くなった人のために薬を、疲れた人のためにキャラメルを。自分のことは、後回しだ。
これは、美しい生き方だと思う。けれど同時に、少し切ない生き方でもある。ムーミンママは、自分のために何を望んでいるのだろうか。ムーミンママ自身は、幸せなのだろうか――そんなことを考えていた。

ムーミン屋敷2F_ママのハンドバック © Moomin Characters™
「ムーミン屋敷」の屋根裏の秘密
階段を上がって2階へ。ここにはムーミントロールの部屋と、ムーミントロールのガールフレンド、スノークのおじょうさんが滞在している。
そしてその上には、屋根裏へと続く縄梯子が垂れ下がっていた。
「ここがムーミンパパの書斎なんです。梯子を引き上げれば、もう誰も入ってこれません」
一階ではムーミンママが誰彼かまわず迎え入れ、温かなスープを振る舞っているというのに、当の主人は屋根裏で一人、梯子を外して籠城(ろうじょう)を決め込むというわけだ。ふと思った。
誰かを受け入れ、寛容であるためには、まず自分自身をしっかりと保つための「聖域」が必要なのだ。

見上げると、ムーミンパパの屋根裏部屋が見える。ムーミン屋敷3F_屋根裏部屋 © Moomin Characters™













