誰をも拒まない場所。
屋敷の案内が終わり、外に出る。正面玄関のドアは、開いたままだ。
「ムーミン屋敷もムーミンバレーパークも同じで、何でも受け入れます。ドアは常に開いています。」
羽毛田さんの言葉が、改めて響いた。何でも受け入れる。誰でも迎え入れる。それが、ムーミンの物語の世界の哲学なのだ。そして、その哲学を守るために、ムーミンパパには屋根裏が必要だったのだ。
寛容であるということは、無防備であるということではない。自分を保ちながら、他者を受け入れる。その、難しいバランスを、ムーミン一家は知っていた。
「コケムス」:すべてが繋がる場所
「ムーミン屋敷」を出て、大きな建物へ向かった。「コケムス」である。フィンランド語で「体験」を意味する、3階建ての展示施設だ。

ムーミントロールがお出迎えする3階建ての展示施設、KOKEMUS(コケムス)。—Journal-ONE撮影
「まずはムーミン谷の食堂でランチにしましょう」と羽毛田さんが案内してくれた。明るい。1階のレストランのテラス席からは、ムーミンとスナフキンが出会った川を囲むように季節の花々が見える。メニューを眺める。北欧風のプレートランチを頼んだ。
料理を待ちながら、午前中に歩いた場所を思い返す。アンブレラスカイ、海のオーケストラ号、おさびし山、スナフキンのテント、灯台、ムーミン屋敷。たくさん見た。けれど、それがどう繋がるのかは、まだわからない。断片が、散らばったままだ。

飯能の森の清々しい風が漂う「ムーミン谷の食堂」のテラス—Journal-ONE撮影
「コケムス」で出会う物語の生みの親
ランチで人心地つき、コケムスのエントランスを抜けると、トーベ・ヤンソンの像が立っていた。ムーミンの生みの親である。
その像の前に立つと、これから見る展示が、単なるキャラクター紹介ではなく、ひとりの作家が生涯をかけて紡いだ物語の世界なのだと、改めて気づかされる。

作者トーベ・ヤンソン像に寄り添うムーミンの物語の仲間たち—Journal-ONE撮影
トーベ・ヤンソンの筆跡を辿って進む
壁には、原作小説の変遷が年表のように展示されていた。
1945年、最初の物語『小さなトロールと大きな洪水』が出版されてから2026年で81年。
物語のテーマは、時代とともに少しずつ変わってきた。
ああ、繋がった。アンブレラスカイに込めた物語
「2025年、去年がムーミンの小説一作目から80周年だったんです。そして現在テーマにしている『ムーミン谷の彗星』は小説2作目なんです。」
と羽毛田さんが言った。だから、アンブレラスカイの企画があるのだ。彗星が近づき、通り過ぎてゆく物語。その色の変化が、エントランスの傘に表現されていたのだ。
ああ、繋がった。
展示を進むと、「それからどうなるの?」という絵本の世界を再現したエリアに出た。床が黄色い。まるで、ページをめくるように進んでゆく感覚だ。壁には、トーベ・ヤンソンが描いた挿絵が並んでいる。
ムーミン谷のジオラマ。歩いた道がそこにある。
さらに進むと、部屋の中央に、大きなジオラマがあった。ムーミン谷の全景である。宮沢湖を模した湖があり、その周りに、ムーミン屋敷、灯台、おさびし山、橋、水浴び小屋が配置されている。
「この「ムーミン谷のジオラマ」は、1時間ずっと楽しめるんです。キャラクターにスポットを当てたストーリーやムーミン谷のできごと、季節の移り変わりのプロジェクションマッピングが見られるんです。」と羽毛田さんが教えてくれた。
朝、昼、夕方、夜と、ムーミン谷の一日が、光と影で表現されてゆく。そして、季節も巡る。

突如、スポットライトに照らされる橋の上のムーミントロールとスナフキン。この巨大ジオラマは、「コケムス」で出会える。—Journal-ONE撮影
ジオラマを見ていて、ふと気づいた。ここにあるのは、さっき歩いてきた場所だ。あの灯台、あの橋、あの山。「さっき歩いてきた場所が、ここにある」という感覚が、不思議なほど強く湧いてくる。
エピローグ:すべてが繋がる瞬間
羽毛田さんが言っていた通りだった。
「全部行ってからコケムスに来ると、『あ、ここ行ったよね』ってなるんです」













