プロローグ:Laviewに揺られて
池袋駅のホームに、ぬうっとシルバーの車体が滑り込んできた。西武鉄道の特急「Laview(ラビュー)」である。
先頭車両の丸っこい造形は、未来から来たようでもあり、けれどどこか懐かしい。車両の幅はさほど広くないはずだが、腰を下ろしてみると、これが不思議なほど窮屈ではない。明るい黄色のモケット生地が貼られたシートが柔らかく身体を受け止める。
なるほど、このままうたた寝でもしたくなる心地よさだ。

飯能へと向かう「特急ラビュー」の、弾丸のような、それでいて柔らかなシルバーの機体。—Journal-ONE撮影
坂を降れば、そこはもう物語の入り口。
北口のバス乗り場から「メッツァ行き」のバスに乗る。
さっきまで人様の家々を眺めていたはずが、バスがふいにお尻を持ち上げるように坂を登り始めると、景色は一変する。左手から新緑がどっと押し寄せてきて、車窓はさらに深い緑に覆われ、やがて視界がぱっと開けた。
正面に現れたのは、ムーミンバレーパークがある「メッツァ」の入口だった。
日常をバス停に置き忘れて。
バスを降り、「metsä」の案内に導かれて木立の中を歩く。
都心のそれより背の高い木々が、瑞々しい新緑をまとっている。頭上からは鳥のさえずりが聞こえてくるが、あまりに出来すぎたタイミングなので、広報の羽毛田さんに「これ、録音ではないのですか?」と尋ねる客もいるらしい。
もちろん、本物だ。いかにも現代人らしい猜疑心を笑い飛ばすように、足元からはムーミンの世界のBGMが静かに流れ、客を物語の奥へと誘っていく。

埼玉県飯能市の「メッツァ(metsä)」入口。© Moomin Characters™
おもいやりカーとの遭遇…
道の向こうから、小ぶりな車が、こちらへ向かってくる。
近づくにつれ、ピコピコと、電子ゲームを思わせるような、なんとも可愛らしい音が聞こえてきた。「おもいやりカー」という電動カートだそうだ。お年寄りやお子様連れなどを乗せて進むその姿には、名前通りの優しさがある。
おもいやりカーが遠ざかったあと、私もその足跡を辿るようにして進む。すると、それまでの深い緑の道——いわば物語への「参道」のような場所を抜け、カフェやショップが向かい合わせに並ぶ通りへと出た。
そこを突き当たると、不意に視界の重心がすうっと下がった。

広大な森を歩き通す体力に自信がなくても、この「おもいやりカー」がいる。—Journal-ONE撮影
宮沢湖だ。
賑やかな店が並ぶ通りのその先に、しん、とした静寂を湛えた湖面が広がっている。
それまでの歩みがすべて、この一枚の風景に出会うための準備だったのだと気づかされる。木々の隙間から見え隠れしていた青が、ここでは遮るものなく目に飛び込んでくる。
「なんと、綺麗な……」と思わず独り言が漏れそうになるのを、あわてて呑み込んだ。都会で磨り減った自意識が、この大きな水鏡によって、静かに凪いでいくのを感じる。
湖畔を進み、新緑のトンネルを抜けると、ムーミンバレーパークの「はじまりの入り江エリア」、物語の入口となる本のゲートの前で羽毛田さんと合流した。

埼玉県飯能市の宮沢湖。対岸にはムーミンバレーパークの豊かな森が広がる。—Journal-ONE撮影
物語の仕掛け:すべてが繋がる瞬間
ムーミンバレーパークの入口「はじまりの入り江エリア」には、すでにアンブレラの装飾で彩られている。
「2026年は、このエリアのアンブレラ装飾を例年よりパワーアップさせました」 羽毛田さんが誇らしげに言う。 「旅の始まりから、わくわくするような景色をお届けしたくて」

アンブレラで彩られた「はじまりの入り江エリア」—Journal-ONE撮影
その予言に、期待をパンパンに膨らませて。
確かに、ここで最初の「わあ」という感嘆が生まれる。その高揚を胸に抱えたまま、訪れる人はムーミン谷エリアへと進んでいくのだろう。
そして、ここからが、羽毛田さんの言葉で最も印象に残った部分だ。











