「実は、パーク全体が一つの大きな物語の仕掛けになっているんです」
羽毛田さんは、少し声のトーンを落として、こう続けた。
「最初に湖畔を歩いて、アンブレラを見て、ムーミン屋敷やおさびし山を巡って……そうやって一日パークで過ごしたあと、最後にコケムスという展示施設に入ると、すべてが繋がるんです」
コケムス——それは、ムーミンの物語と世界観を深く知るための展示施設だ。原作の挿絵、トーベ・ヤンソンの人生、物語の背景にある思想。それらが、丁寧に、しかし圧倒的な情報量で展示されている。
「全部見てから、コケムスに入ると繋がる」
その言葉の意味を、筆者はまだこの時点では完全には理解していなかった。けれど、その答えは、この後の取材の中で、少しずつ明らかになっていく。

穏やかな宮沢湖を背に、柔らかな微笑みを浮かべる羽毛田さん。その佇まいには、訪れる者を物語の世界へと優しくいざなう、洗練されたホスピタリティが宿っている。—Journal-ONE撮影
アンブレラスカイ:空を彩る物語
空に咲いた傘の花と、足元の色遊び。
湖に沿って歩いていくと、視界の先に、不意に色彩の雲が現れた。
アンブレラスカイ。
赤、青、黄、紫、緑、オレンジ——色とりどりの傘が、まるで浮いているように並んでいる。その数、数百本。いや、もっとあるかもしれない。春の陽射しを受けて、一本一本が違う表情で輝いている。
彗星の物語を、光のプリズムに乗せて。
「2026年のアンブレラスカイは、『ムーミン谷の彗星』をテーマにしているんです」
羽毛田さんが教えてくれた。
『ムーミン谷の彗星』——ムーミンの原作小説第2作。物語では、ムーミントロールが仲間たちと共に、彗星という危機を乗り越えていく。そして、この作品こそが、ムーミントロールとスナフキン、そしてスノークのおじょうさんが初めて出会う物語でもある。
“We are braver together.”(一緒にいれば、もっと勇敢になれる)
そのメッセージが、この傘の色彩に込められているのだという。
上を見上げると、光が、傘のあいだを縫うようにして地面まで届いている。そして足元には、色とりどりの影が揺れている。風が吹くたび、傘が微かに揺れ、その影も波打つ。一つひとつの色が重なり、溶け合い、ときに反発し合いながら、地面に不思議な模様を描いている。

春_ムーミン谷とアンブレラ© Moomin Characters™
天気と遊んで、物語の住人になって。
「今年は、新緑の季節だからこそ楽しめる仕掛けを増やしました」
羽毛田さんが続ける。
「雨の日には、地面のリフレクション——傘が水たまりに映り込む様子も綺麗なんです。晴れの日には光の透過、雨の日には水面への反射。同じ場所が、天気によって全く違う表情を見せてくれます」
実際、前日の雨が名残惜しそうに残したわずかな水たまりが、足元で色とりどりの傘を映し出していた。そのゆらゆらとした色の揺らぎを見ていると、なんだか捉えどころのない儚さを感じて、けれどそれがどうしようもなく美しいのである。
アンブレラスカイロードと名付けられたこの小径をそぞろ歩けば、不意に大きなキャラクターパネルのバルーンが姿を現した。ムーミン、スナフキン、スノークのおじょうさん——。お馴染みの面々が、物語の挿絵そのままの愛らしい姿で、ふわりと宙に浮かんでいるではないか。
「バルーンの下で記念撮影をする方も多いんですよ」
なるほど、と頷く。こうして物語の一場面に文字通り入り込んでしまう体験は、静かに頁をめくる読書とも、銀幕を眺める映画鑑賞ともまた違う。なんとも不思議な、心地よい没入感に包まれるのである。

空に架かる虹のようなアンブレラの群れ。そこには、「ムーミン谷の彗星」に登場するキャラクターたちが入り込んだ透明バルーンが気持ちよさそうに浮かんでいる。—Journal-ONE撮影
入り江のテラス:シャボン玉と遊具の幻想
アンブレラスカイロードを抜けてさらに進むと、「入り江のテラス」と呼ばれるエリアに出た。ここは、子どもたちが遊べる遊具が設置された、開放的な広場だ。
「ここにも、アンブレライベントを、楽しめる仕掛けがあるんですよ」
羽毛田さんが指差す先には、テラスの一角を彩る傘の装飾があった。そして、その近くには、自由に使えるカラフルな傘も用意されている。













