レース直前、黒川は手を動かし何かをつぶやきながらトラックを歩いていた。集中力はいかにも高まっていそうだった。
「自分が一番強いって言い聞かせたり、自分ができるレースをイメトレで再現していました」
「自分のしたいレースが完璧にできた」という黒川。勝利後に花束などを手渡されると、両手を高く挙げておどけてみせた。眼鏡や個性的な髪型が印象的な選手だが、「ここからまた400mHといえば黒川」と走りでも再び中心的な存在になりたいと高らかに述べた。

勝利後に花束などを掲げる黒川-永塚和志撮影
試練と課題の中で前を向くアスリートたち
青木アリエが見せた現在地
一方、好記録が出たわけではないものの、レース後に多くのメディアに取り囲まれたのが女子400mの青木アリエ(日本体育大学)だ。
同組で走ったモーガン・ミッチェル(オーストラリア)に次ぐ2位となった青木のタイムは53秒60と平凡なものだったが、レース後、大会直前に溶連菌に感染したことを明かした。
レースの残り100mでの体力が残っていなかったという大学4年生。「優勝を狙っていたんですけど、落ち着いて走れたんじゃないかなと思います。」と、明るい表情で振り返った。
ここまでの歩みと現在の心境
1年前の同大会では、2008年に丹野(現姓・千葉)麻美氏の持つ日本記録を0秒04上回る51秒71のタイムで優勝した。「フロレス・アリエ」として競技に参加していた当時は、ペルー国籍であったために日本記録とはならなかった。しかしその後、日本国籍を取得し、日本女子陸上界の新星として注目を集めている。
浜松出身の青木は「去年と同じレーンで走らせてもらいました。今年、地元(で走るのは)最後になるかもしれない。ですから、元気な姿を見せられたらなと思っていました。」と笑顔を見せた。
昨年は東京での世界陸上の混合1600mリレーの代表に選出。しかし、本番では出場に機会をえられず競技を辞めることも頭をかすめるほどの失意を味わった。2025年を「嬉しい思い出もあったんですけど、きついところもあった。」と振り返った青木。だが、表情や口調からは陸上競技に打ち込む意欲の高さが見えた。
「大きい目標を立てるのが好きではない」とした青木はしかし、9月開幕のアジア大会では「決勝で3位以内を目標に頑張っていけたら」と力強い言葉を残した。

地元・静岡で力強い走りを見せた青木‐永塚和志撮影
中長期視点で見る日本陸上の現在地
陸上のような個人競技ならではの見どころは、選手たちが目先だけでなく中長期を見据えながら競技と向き合い、高みを目指して前を向く選手が多いことだ。
4年に1度のオリンピックのサイクル。これを前提とすれば、今年はパリと2028年のロサンゼルス大会の中間の年だ。
その意味では多くの選手が、数ある大会の1つである静岡国際陸上も現在地を図るための位置づけとしていたように見受けられた。
日本男子400mの現状と課題
男子400m佐藤風雅(ミズノ)は同大会のタイムレース決勝で1位(45秒47)となった。しかし、「世界に挑戦するというのを毎年、テーマに」していると語る佐藤。決して、現状に手応えを感じつつも浮足立つことはなかった。
29歳の佐藤は2022年、2023年、昨年の東京での世界陸上、2024年パリオリンピックに日本代表として出場している。25年大会の同種目では中島佑気ジョセフが日本記録(44秒44)を出すとともに、日本人として34年ぶりの決勝進出(決勝6位)という結果を残し、明るい話題を提供した。
ただ佐藤はここ数年での男子400mでの「高速化」を指摘する。そして、中島以外の日本勢の停滞を危惧する発言をした。
「毎年言っているんですけど、ここ数年、『世界は思ったより速かった』ということを言っています。ではその分、自分たちも、前に進んでいるかというとそうでもない。アベレージは上がったかもしれないですけど、(4)4秒台が何人も出てこない。そうい停滞をすごく感じる2023年からの3年間でした。なのでまずは自分自身が世界の入口というか、そういうところに入って後ろを引っ張るようなレースができる年にしたいと思っています」
自身の強化を「4年計画」で考えながら進めているという佐藤。しかし既に、2023年のアジア大会では銀メダルを獲得している。今秋の同大会への出場枠も「死に物狂いで」取る。そして、「44秒台の前半」を目指していきたいと力強く語った。
静岡国際陸上のラストを飾った男子100m
フィナーレを飾った男子100mスプリント
静岡国際陸上の最終レースとなった花形の男子100m。競技場上空をより濃い灰色の雲が覆って雨が本降りになる中で、デーデー・ブルーノ(セイコー)が10秒29で優勝した。

「X」アカウント https://x.com/kaznagatsuka























