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ニフレルWONDER MOMENTS。巨大な球体と光の円環の中で来館者が体験を楽しんでいる。
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人魚エピソード

「うちの娘は小さい頃からニフレルを楽しんでいて、4歳か5歳くらいの時に『ここに人魚がおった』って言うんですよ」

西前さんがふと、そんな思い出話を挟んだ。娘さんが見たのは、おそらくこのあたりのドジョウだったのだろう。当時プリンセスの映画に夢中だった彼女の目には、水中でくねる細長い生きものが、人魚に見えたのだという。大人には解説が必要な景色も、子どもは自分だけの物語ですっと理解してしまう。その自由さが、なんだか無性に羨ましくなった。

逆さクラゲ

歩みを進めた先、ガラスに張りついたまま動かない一匹のクラゲに目が留まる。

「これはサカサクラゲっていうクラゲです。クラゲはフワフワと浮遊しているのが普通なんですけど、サカサクラゲたちは海の底でペタッとなって、ガラスにもくっついている。高知県とか沖縄県とか暖かい海に棲んでいます」

漂うことこそがクラゲの本分だと、勝手に思い込んでいた。だが、ここにいるのは、あえて漂うことをやめ、逆さにひっくり返って静止するという、ちょっと変わり者の生きものだ。当たり前だと思っていた常識のひとつが、また静かに崩れていく。

【WONDER MOMENTS】——無重力の光と、

側転する子どもたち

闇のトンネルを抜けた先、吹き抜けの巨大な空間に出た瞬間、思わず足が止まった。

ニフレルWONDER MOMENTS。巨大な球体と光の円環の中で来館者が体験を楽しんでいる。

頭上の球体と床面の光は連動している。来館者の動きによって空間そのものが変化していく。—Journal-ONE撮影

そこは、アーティスト・松尾高弘氏が手がけた全身体験型のアート空間「WONDER MOMENTS」であった。空間の頭上には巨大な球体が浮かび、1階の床面にはそれと対をなすように光の円環が広がっている。宇宙の誕生、深海の静寂、生命の躍動といったテーマを宿した26ものシーンが、ランダムに千変万化の光となって降ってくる。

圧巻なのは、1階の光の直下に群がる子どもたちの姿であった。

球体から床へと落ちる光の粒子や波紋は、そこに足を踏み入れた人間の動きに敏感に反応し、生きもののように形を変えて追従する。その光の戯れに吸い込まれるように駆け回っていた子どもたちの興奮が、ある瞬間に最高潮へと達した。

ひとりの男の子が、溢れ出すエネルギーを抑えきれずに、光の円環の真ん中でくるりと綺麗な側転を決めたのだ。すると、それを見た見知らぬ女の子が「私も!」と言わんばかりに触発され、すぐ隣でくるりと側転を返す。言葉もなく、ただ光の戯れに感極まった子どもたちが、連鎖反応のように次々と床の上で転がり始めたのである。

体操教室でもないアート空間で、狂喜のあまりぐるぐると回転し続ける子どもたち。その滑稽で、あまりにも無邪気で瑞々しい身体の躍動に、胸がぎゅっと締めつけられるような愛おしさがこみ上げてくる。

そして、その光の輪を取り囲む親たちも、負けじとスマホのカメラを構えていた。

2階からの眺め——見守る側もまた、光の輪の中に

ひとしきり側転の連鎖が収まった頃、私は2階の回廊へと上がった。見下ろすと、先ほどまで地上で見ていた光景が、まるで違う顔を見せる。子どもたちを追いかけるように輪の外側を歩いていた大人たちが、いつの間にか、その輪の内側に立っていた。

手にしたスマホは、次々と表情を変える光の速さにとうとう追いつくことを諦めたらしい。カメラを構える手が、いつしか下がっている。我が子を記録することに一生懸命だったはずの背中が、気がつけば、我が子と同じ輪の中で光を踏んでいた。見守る者と見守られる者の境界が、この光の粒子の中では、いともたやすく溶けてしまうようだった。

『WATER』と『EMOTION』——生きものを置かない理由

2階の回廊へと上がり、眼下で戯れる子どもたちの愛くるしい姿について西前さんと微笑ましく言葉を交わしていると、空間の光景が静かに一変した。

『WATER(ウォーター)』のシーンが始まったのだ。

「これは水の彫刻をテーマにした作品で、生きものにとっても私たち人間にとっても不可欠な『水』を象徴的に描いています。松尾さんご本人にとっても、非常に思い入れの強い作品なんです」

西前さんの解説と重なるように、球体から青く澄み切った水面と波紋の彫刻が広がり出した。すると1階の子どもたちは、床に青い波のグラフィックが広がった途端、誰に教わるともなく、まるで水中に飛び込んだかのようにクロールやバタ足の仕草をして「泳ぎ」始めたのである。

足を踏み下ろすたびに、光のクリオネたちがふわっと足元から湧き上がり、子どもたちの動きを追っていく。言葉による無味乾燥な解説など何ひとつ存在しないのに、子どもたちは野生の直感でその仕掛けを察知し、全身でアートと同化していくのだ。

■記者プロフィール
編集部-小谷
ナイトランが好きなインドア派。旅と朝カフェ、鮮魚コーナーを愛するJournal-ONE編集部員。メーカーでのアートディレクター・商品企画を経て、気づけばメディア運用側へ。
取材・文:
編集部- 小谷( 日本 )
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