不意打ちの大観覧車——大阪港駅への道
地下鉄の、あの薄暗い車内に閉じ込められていたかと思うと、電車は突然、機嫌よく坂を駆け上がりはじめる。まばゆい光とともに視界が一気にひらけて、大阪の町が左右へとダイナミックに飛び込んできた。気がつけば、すぐ隣を高速道路が並走していて、都会の真ん中を空中散歩しているような気分だ。
地下鉄が地上へ出ると、車窓の向こうに天保山大橋が現れた。
そして港町の気配が濃くなっていく。—Journal-ONE撮影
しばらくして、ビル群の隙間から待望の海が顔を覗かせ、港町の気配が近づいてくると、いよいよフィナーレ。大阪港駅のホームへ、電車がするすると滑り込んでいく、まさにその時。
右側の車窓の向こうに、それはもう、不意打ちみたいに、どんと派手に現れた。
天保山大観覧車。夏の光を浴びて悠然と回り続けるその巨大な輪が、視界いっぱいに飛び込んでくる。そのただならぬ存在感に、胸の奥がざわりと動いた。
海遊館へ取材に向かう前日の夕刻、私はひとり大阪に降り立った。相棒のキャリーカートを、コロコロと転がしながらの、ひとり旅だ。
大阪港の街並みの向こうに現れた天保山大観覧車。雲間から差し込む光を受けながら、
その巨大な輪は静かに回り続けていた。—Journal-ONE撮影。
迷子の午後——天保山、山を探して
日本一低い山を探す旅
「天保山」。
その名前を聞いて、多くの人は水族館の隣にそびえる大観覧車か、天保山マーケットプレースのにぎわいを思い浮かべるかもしれない。だが、この地にはもう一つ、とびきり奇妙な名所がある。日本一低い山、標高4.53メートルの天保山だ。
ホテルに荷物を置き、夕方の風の中を歩きはじめた。大阪は六月四日に梅雨入りが発表されていた。この日はまだ雨こそなかったが、気温二十二、三度の空気はどこかねっとりと肌に絡みつく。まとめ髪の首筋に、湿り気を帯びた風がわずかにあたる。
前を歩くカップルの女性が、港から吹き抜けた風に髪がたなびくのをそっと手で押さえた。私は腕と首元に風を感じるだけで十分だった。
左手のどこかから太鼓の音が聞こえてくる。部活の練習だろうか。街路樹の葉がさわさわと擦れ合い、それが風のある証拠だと気づく。強くはない、背後からゆっくりと押してくる港の風だ。
サンタマリア号と、夕暮れの港
海遊館の方角を目指して歩いていたはずが、気づけば目の前に海が広がっていた。停泊するサンタマリア号。岸壁に腰を下ろし、思い思いに水面を眺める人々——どちらかといえば外国からの旅人が多い。その傍らに、ひとりの人魚の像が海の方を向いて佇んでいた。夕日が沈んでゆく水平線を、ひたと見つめるように。背中から風が吹いている。海へ向かって、陸の側から静かに。
広場をひとめぐりして写真を撮っているうちに、ふと気がついた。天保山へ行く時間が、なくなりかけている。
天保山の岸辺では、停泊するサンタマリア号の向こうに夕日が広がる。
海を眺める人々の姿が、大阪港の穏やかな時間を感じさせてくれる。—Journal-ONE撮影
山頂標識は、ずっとそこにあった
Googleマップを頼りに歩きはじめると、なぜか海と平行に進んでいる。こんな平らな場所に、山があるのだろうか。歩くほどに体が熱を帯び、まとめ髪の生え際にじわりと汗が滲んだ。
天保山を探して歩く途中で見上げた天保山大橋。
まだこのときは、目当ての山頂標識がすぐ近くにあることに気づいていなかった。Journal-ONE
天保山公園に着いたとき、少しだけ安堵した。細長い公園の奥に大きな石柱のような塔が立っている。あの近くに山頂があるのだろう——そう見当をつけて歩きはじめたものの、それらしきものが見つからない。ぐるぐると探し回るうちに体はすっかり上気して、うなじにじっとりとした汗を感じる。
舟つき場の近くに出ると、数人の人が静かに船を待っていた。平日の夕方六時半に、ここからどこへ向かうのだろう。
「あの、天保山はどこにあるんですか」
思い切って、傍らのおばあさんに声をかけた。
「ああ、あそこの大きな塔がありますやろ? 右端見てみ?」
振り返れば、石碑と小さな山頂標識は、ずっとそこにあった。歩き回った末に気づくのは、なんとも天保山らしい結末だと思った。
標高4.53メートル。二等三角点が鎮座するその小山に立つと、大阪港の夕空がゆっくりと茜色に染まっていくのが見えた。汗の引いた首筋に、港の風がひとすじ、涼しく流れた。
天保山はすぐそこにあった。歩き回った末にたどり着いたのは、
標高4.53メートルの小さな頂だった。—Journal-ONE撮影
天保山|アクセスと山頂について
天保山は大阪市港区に位置する、標高4.53メートルの二等三角点を持つ山。大阪港駅から徒歩約10分。天保山公園内にあり、山頂標識と石碑が目印。見つけにくいため、公園スタッフや周辺の人に聞くのが確実だ。













