バックヤードへ——天窓の光の下で
通常は立ち入れない、鉄骨の足場の世界
「そろそろ、エサやりの時間ですわ。せっかくやから、上から見てもらいましょか」
田井さんに促されて、通常は立ち入れないバックヤードへと向かった。入口の手前で、靴底を洗う。小さな手間だが、この先が生きものたちの「暮らしの場」であることを、静かに告げていた。
扉の向こうに広がっていたのは、鉄骨で組まれた無骨な足場の世界だった。壁面を囲む足場が、中央で十字に連結している。その足場の上に、2名1組の飼育員ペアが2組——「海」くん担当と「遊」ちゃん担当に分かれて、それぞれの持ち場に静かに立っていた。
海遊館の「太平洋」水槽のバックヤード(舞台裏)。 天窓から差し込む光が水面を照らす。鉄骨が組まれた足場の上から大水槽を見下ろす 、緊迫感に満ちた舞台裏。—Journal-ONE撮影
田井さんと私は、最も高い足場の位置から、その光景を覗き込む形になった。時折、天窓から差し込む光が、水面をまぶしく照らし出している。けれど、その美しさに目を奪われたのも一瞬、足元に目を落とすと、そこには吸い込まれそうな深い水槽が待ち構えていた。どう言い訳したって、高い場所が得意じゃない身にはいささか酷なシチュエーションだ。
「落ちても水の中ですし、大丈夫ですよ」
田井さんが、さりげなく言った。その一言で、少し肩の力が抜けた。
ジンベエバックヤード|参加方法
このバックヤードからの見学は、海遊館が公式に開催している有料の体験イベントとして、一般の方も参加することができる。ガイドが同じ最上階の足場から、エサやりの様子をわかりやすく解説してくれる。エサやりの時間は10時30分と15時の1日2回。「太平洋」水槽の前で観覧するだけでも十分に迫力があるが、真上から見下ろすこの体験は、また別次元の感動がある。
1トンの巨体が、すっと立つ
「まだかぁ、まだかぁ」——エサを待ち侘びる2頭
飼育員たちがそわそわと準備をはじめる気配を、あの大きな身体のどこで察するのだろう。「海」くんと「遊」ちゃんは、もうすでに水面あたりを、ソワソワしている。
「もうわかってるんですよ。『まだかぁ、まだかぁ』って、待ち侘びてるんです」
田井さんが笑いながら言った。1トンの巨体が、食事の時間を心待ちにしている。その愛らしさと、スケールのギャップに、思わず頬がゆるんだ。
飼育員たちが準備を始めると、
「海」くんと「遊」ちゃんは自然と水槽の上へ浮かび上がってくる。—Journal-ONE撮影
呼吸をぴったり合わせて——飼育員の給餌
やがて、飼育員が長い柄杓を手に取り、水面をたたき始めた。その合図を見た瞬間、さっきまでのんびりしていた二頭が、それぞれの担当ペアの周りをくるくると泳ぎはじめる。
長い柄杓を手に水面をたたく海遊館の飼育員。
その合図に「海」くん「遊」ちゃんたちが担当ペアの周りへ集まりだす。—Journal-ONE撮影
あっちの「海」くんも、こっちの「遊」ちゃんも、少し離れた場所で、自分の担当の飼育員だけをじっと見つめているのが健気でいい。バケツの中から、おいしそうなオキアミが少しずつ柄杓へと移される。「待ってたで」とばかりに、白い大きな口を開けながら浮き上がってくる。
飼育員は慌てず、けれど呼吸をぴったりと合わせるようにして、柄杓のエサをその大きな口へと滑り込ませた。
激しく水飛沫をあげるわけでもなく、ただそこに「在る」という圧倒的な存在感。その姿は、おごそかで、どこか静謐という言葉がぴったりだった。
「エサやりの時間は、健康チェックの時間でもあるんですよ。すぐ目の前で口やエラや皮膚の状態を観察できますから」
世界を旅する生きものたち
海遊館のペンギンたち——気温0度の「南極大陸」水槽
水槽の向こうの気温0度に保たれた「南極大陸」水槽。
ペンギンたちは岩場でゆったりと朝の時間を過ごしていた。—Journal-ONE撮影
「南極大陸」水槽前の観覧通路へと足を踏み入れると、ガラスの向こうはなんと気温0度の世界。ここにはオウサマペンギン、ジェンツーペンギン、アデリーペンギンという、名前を聞くだけでどこか誇らしげな三種類のペンギンたちが暮らしていて、その舞台は二つに分かれている。
ひとつは、水槽越しに見る水中エリア。確かにペンギンたちの姿は確認できる。
「本来はものすごく俊敏なんですよ。でも朝のこの時間は起きたてなので、ゆっくりしてるんです」













