
「見ていてくださいね」。その一言から、予定にない小さなライブ体験が始まる。—Journal-ONE撮影
その気配を察したのか、テッポウウオが水面までぐいっと上がってきて狙いを定め、鋭く水弾を射出した。シャッター速度すら置き去りにする閃光のような水撃。的にセットされたエビが撃ち落とされたその圧巻の「技」に、歓声が沸き起こった。

水面の向こうにある獲物を見据えるテッポウウオ。次の瞬間、水鉄砲のような一撃が放たれる。—Journal-ONE撮影
「よくご存知のお客様は、テッポウウオの給餌が見たいとキュレーターにリクエストすることがあるんです」
村上館長が種明かしをしてくれる。
「ニフレルのいいところは、何時じゃないとやりませんとかではなくて、常にキュレーターがいますので、すぐに準備して見ていただける」
決まった時間に、決まった演目が始まるショーではない。その場に居合わせた者だけが受け取れる、台本のない一瞬。それもまた、この場所が大切にしている「感性」のかたちなのだろう。

飼育管理とコミュニケーション。その両方を担うキュレーターの姿がニフレルの日常に溶け込んでいる。—Journal-ONE撮影
もっとも、この水芸にも人知れぬ試行錯誤の跡があるらしい。的の位置は、すぐそこの「パタパタドクドクカード」の壁とほんの目と鼻の先だ。狙いを外せば、勢いよく放たれた水はカードにまで届いてしまう。
「角度がよくないとお客様に水がかかりすぎるし、位置が高すぎても天井まで行ってしまって…」
館長がそう振り返りながら、ふと壁の一角を指差した。
「向こう側の壁に設置しているパタパタドクドクカードが、びしょびしょになったこともありますか」
館長がおかしそうに肩をすくめる。
「簡単な事のように見えますが、いろいろ試して、失敗しながら、今の展示に落ち着いてます」
「あそこまで飛んでたんですね」と西前さんが目を丸くする。「どくどくカード側はあかんってなってます」と館長も笑う。生きものの豪快な一撃と、それに振り回されながら調整を重ねてきたスタッフたちの、なんとも人間くさい攻防戦。展示の完成形だけを見ていては、決して見えてこない裏側だった。
パタパタドクドクカードが教えてくれること
ゾーンの最後に、村上館長が「これ、ちょっと見てみてください」と一枚の解説カードを取り出した。「パタパタドクドクカード」だ。

毒というテーマを、遊びながら理解できるよう工夫されたパタパタドクドクカード。—Journal-ONE撮影
「このゾーンの毒の生き物たちは『攻撃』『防御』『もほう』『無効化』の4つのスキル、能力に分けて紹介してまして。例えば『もほう』でしたら、このオレンジのラインでこう1回折っていただいてパタパタとすると、先ほど見てましたノコギリハギの、毒を持つ生きものに姿を似せて身を守る技が出てくるという」
指先でパタパタと折っていくと、隠されていた生きものの毒の秘密がひょっこりと顔を出す。
「全部で8種類の絵合わせで生き物たち紹介しております」と西前さんが付け加える。「半分に折ってパタパタとハート型になるので」
「これを見ながら防御を探してくれるお子さんもいらっしゃったりとか」
「無効化」の実例として、館長がある水槽を指し示してくれた。ニモで有名なクマノミと、その棲み処であるイソギンチャクだ。どちらも毒を持ちながら、クマノミは体表のヌルヌルでイソギンチャクの毒を無効化し、共生関係を築いている。

「これ、単純に喧嘩しています」。村上館長の一言で、目の前の光景がまったく違って見えた。—Journal-ONE撮影
「この2匹のクマノミは、単純に喧嘩しています」
館長があっさりとそう明かす。
「あんなに喧嘩することもあるんですか?」
西前さんが目を丸くした。
「このイソギンチャクは自分の場所だと。体の大きさが同じくらいなので、今は拮抗してしまって。大きさに差が出て、大きい方がメスに性転換すると、仲良くペアになるはずです。今ちょうど同じくらいの大きさなので、お互い譲らずみたいな」













