「まさかこの中にホワイトタイガーがいるとは思われないお客様もいらっしゃいました」
西前さんが笑う。あの穏やかな寝顔を思い出しながら、こちらも思わず頬が緩んだ。
運ばれてきた、毒々しくも愛らしい食卓
やがてテーブルには、次々と料理が運ばれてきた。
パンにたっぷりの紫のクリームとチーズをのせた「クマノミのおうちドッグ」には、小さなクマノミのタグが誇らしげに挿さっている。見た目の愛らしさに反して、かぶりつけばしっかりとした食べ応えがあった。

クマノミとイソギンチャクの共生関係を表現した「クマノミのおうちドッグ」。見た目の可愛らしさだけでなく、しっかりと食べ応えもある。—Journal-ONE撮影
そのかたわらには、「ふぐ&チップス」とフライドポテトが山のように盛られている。あっさりと上品な白身をサクサクの衣で包んだふぐと、カリッと揚がったチップス。同じ「揚げる」という調理法でありながら、歯触りの異なる二つの食感が対比を成す。ザク切りの野菜が入ったディップを絡めれば、酷暑の一日で凝り固まっていた舌が、ふっとほどけていくようだった。

サクサクに揚げたフグとフライドポテト。EAT EAT EATの人気メニューのひとつ。—Journal-ONE撮影
先ほど色の変化を見せてもらったグラス、「ふしぎなクラゲミルクティー」には、「DOKU DOKU」というタグが揺れている。しっかりとした紅茶の風味に、シロップの甘みがゆっくりと広がっていく。氷でよく冷えたそれを喉に流し込むと、二日間歩き回って渇ききっていた喉に、これ以上ないというくらいぴったりと染み渡った。

「ふしぎなクラゲミルクティー」。付属のシロップを加えると色が変化する、EAT EAT EAT人気メニューのひとつ。—Journal-ONE撮影
デザートには、色とりどりのシュガーをまとった「どくどくシュガードーナツ」が添えられた。毒々しいはずの色合いが、皿の上ではただ愛らしい。お腹はもう十分だったはずだが、これはこれ、別腹である。
食べ進めながらふと顔を上げると、テーブルの向かい、通路を挟んだ先の展示ケースの中に、白い巨体がゆったりと歩いているのが見えた。ホワイトタイガーだ。歩くたびにガラス越しの照明を受けて、縞模様が淡く発光するように浮かび上がる。取材を終えたはずのこの時間にも、生きものたちの気配は絶えず視界の隅にあり続けていた。

食事をしていても視界の先にホワイトタイガーが現れる。ニフレルらしい距離感だ。—Journal-ONE撮影
館長が語った、これからのニフレル
食事が進む中、村上館長がふと、こんな言葉を口にした。
「今の時代、スマホ、SNS、AIなど画面を見ることがとても多い。そんな中、スポーツや音楽ライブなど、人に対して深く感動する体験の価値が高まっていると思う。ニフレルも、生き物のうごきに合わせながらお客様に体験していただく『現場のライブ感』や、臨機応変なキュレーターの魅力を、スポーツや音楽ライブの感動と同じように、深い体験へと繋げていけたらとと思っています」
生きものは、台本通りには動くものではないし、お客様の興味関心も様々。その予測不可能さとキュレーターの創意工夫こそが、この場所の魅力を高める核なのだと、館長は静かに語った。
「拡大するのではなく、このコンパクトで丁度良い空間の中で体験を高めていくのがニフレルらしさですね」
そう返すと、西前さんは深く頷いた。
「『時間に追われて巡る』のではなく、自分のペースで楽しめる展示施設を目指しています」
開業から10年。「生き物のように進化する」を掲げ、毎年ゾーンやコラボレーションを変化させながら、キュレーターと運営が手を取り合って生きものたちを守り続けてきたのだという。
派手な最新技術で目を奪うのとは違う、日本らしい味わい深さ。大人が子どもの目線を借りることで、忘れかけていた感情がふっと開かれていくような体験の良さが、この場所にはある。
「『子供のために来たけれど大人が楽しんでしまった』という声も多く、ニフレルでの体験が感性を広げるきっかけになれば嬉しいです」
西前さんのその言葉に、この二日間で見てきた光景のすべてが、ゆっくりと重なっていくようだった。













