【かくれるにふれる】——声にならない声が漏れる、発見の瞬間

ニフレル「かくれるにふれる」ゾーン。保護色をテーマにした展示空間で来館者が生きものを探している。—Journal-ONE撮影
静寂な宝探しの空間「かくれるにふれる」では、岩肌や枯れ葉と同化したオニダルマオコゼやコケガエルが潜んでいる。
「こっちは岩ですね」
西前さんが指し示す先を、何度見つめても、ただの岩にしか見えない。
「魚なんですけど、目を見つけていただくと、魚だってやっとわかります」
言われて目を凝らすと、ようやく岩肌の一点に、小さな瞳がひとつ、こちらを見返しているのに気づく。姿を消すのではなく、風景そのものになりきる。その徹底ぶりに、ただ驚くしかなかった。
「見えているのに見つからないのが一番おもしろい。ようやく見つけた時に『アーッ』ってなる感じ」

木や苔と見分けがつかないほど巧みに擬態するコケガエル。見つけた瞬間に思わず声が出る。—Journal-ONE撮影
村上館長は悪戯っぽく笑う。あえて答えをすぐに示さず、「見えない」時間がもたらす焦燥のあとに訪れる発見の歓喜。その体験価値そのものが、計算し尽くされた空間デザインとなって落とし込まれていた。
【みずべにふれる】——頭上の猛獣と、
地上の奇跡
これまで静謐な闇と人工光によって研ぎ澄まされてきた空間から一転、頭上の大きな天窓から真夏の太陽光が燦々と差し込む「みずべにふれる」ゾーンへと出た。
「ちょうど万博記念公園駅から歩いてきたときに、外から正面に見えていたのがこのあたりなんですよ」
村上館長が指差す先は、自然光が満ちあふれる眩しいほどの開放的な空間であった。そこに鎮座するのは、圧倒的な存在感を放つ大型生物たちだ。
水槽のガラスに近づき、奥を覗き込んだ館長が思わず笑みをこぼした。
「ちょっと顔が隠れていますね。それにしても、イリエワニは足だけでこんなにでかい。あ、アクアは寝てますね。あのピンク色の肉球が可愛らしいでしょう」
巨体を丸めてすやすやと眠っていたのは、ホワイトタイガーの「アクア」だ。

眠るホワイトタイガー「アクア」を見つめる来館者。ガラス越しとは思えない近さがニフレルらしい。—Journal-ONE撮影
館長がふと頭上を指差す。見上げれば、人間の頭上を横切るようにホワイトタイガー専用の空中通路が渡されている。
「あの上を悠々と歩いたり、上の通路でお昼寝したりすることも多くて……あ、いま顔がこっちを向きましたね」
トラの気品と巨躯を持ちながら、キュレーターたちのユニフォームの色彩を覚えて後を追ったり、「アクア」と名を呼ばれれば顔をこちらに向けて何か言いたげな表情をするるという。強靭な猛獣としての威厳と、愛くるしい素顔の同居。ガラス越し、そして頭上からの視線が、人間と動物の距離感を心地よく縮めていく。

巨体を横たえ静かに休むイリエワニ。ガラス越しとは思えない近さでその姿を観察できる。—Journal-ONE撮影
そのかたわらでは、巨躯を誇るイリエワニも、今日は穏やかな眠りの中にいた。至近距離でガラス越しに「にらめっこ」ができるほどの距離感。日中には水中で活発に身を翻すその動と静の対比が、水辺のリアリティを物語っている。
ミニカバの「モトモト」と「フルフル」
「みずべにふれる」の水槽の前で、とりわけ温かな人だかりができていたのが、ミニカバの「モトモト」と「フルフル」の展示前だ。
「わあ、かわいい!」「見て、お鼻が出たよ!」
小さな子どもたちがガラスに額をぴったりと押し付け、声を弾ませて見入っている。水底を歩く丸く艶やかな身体、どこか愛嬌のある顔立ちが動くたびに、周囲から「可愛い」という歓声が波のように広がる。
世界三大珍獣に数えられる絶滅危惧種・ミニカバの繁殖に、ニフレルは見事に成功を収めてきた。ここで生まれた子どもたちが全国の施設へと旅立ち、さらに新たな命を紡いでいるという歴史を知れば知るほど、目の前で歓声をあげる子どもたちの輝く瞳と、ゆったりと水と戯れる親カバの佇まいが、命のバトンを繋ぐ尊き一瞬として胸に迫ってくる。
カフェ「EAT EAT EAT」の毒々しいメニュー

命の営みを見つめたあと、同じ空間でゆっくり食事を楽しめるのもニフレルらしさの一つだ。—Journal-ONE撮影













