この命の営みのすぐ横に広がるのが、「生きものを眺めながらピクニック」をコンセプトにした約100席の広々としたカフェ「EAT EAT EAT」だ。朝のモーニングからランチ、午後のひと休みまで、訪れた人々が思い思いの時間を過ごしている。
たくさんのメニューの中でもひときわ目立っていたのは、先ほどの展示ゾーンと連動したユーモアあふれる限定メニューの数々だ。

展示と連動した限定メニューが並ぶEAT EAT EATのメニューボード。生きものたちの個性が食のデザインにも反映されている。—Journal-ONE撮影
注ぐと魔法のように色が移ろう体験型の「ふしぎなクラゲミルクティー」、クマノミとイソギンチャクの愛らしい共生関係を表現したフード「クマノミのおうちドッグ」。さらには無毒のフグを使ったウィットに富んだ「ふぐ&チップス」に、毒の多様性を色鮮やかに表現した「どくどくシュガードーナツ」。
危険や不気味さとして遠ざけられがちな生きものの属性を、美味しい驚きとデザインへと転換してみせる遊び心。命の厳粛な営みを見つめる視線と、美味しいものを頬張りながら寛ぐピクニックの解放感。その二つが真夏の光の下で優しく溶け合い、ニフレルならではの豊かな時間が流れていた。
【うごきにふれる】——垂れるシマシマと、
対等なまなざし

ワオキツネザルや鳥たちが暮らす空間。来館者は生きものたちのいる世界へ自然に入り込んでいく。—Journal-ONE撮影
そして足を踏み入れた「うごきにふれる」は、まさに生きものたちと人間が同じ空気を分け合う「シェアハウス」であった。
頭上の木組みへと視線を向けたところで、西前さんがふと言葉に詰まったように声をあげた。
「私、ワオの朝の出勤をお勧めしていたのに、ご案内するのがすっかり……」
「先に来たらよかったですね」
村上館長が、悪びれる様子もなくやんわりと笑いながら合いの手を入れる。西前さんは「ごめんなさい、朝一番に……」と申し訳なさそうに肩をすくめた。飼育エリアの扉が開いた瞬間、待ってましたとばかりに元気よく飛び出してくるのだという「出勤」の一部始終。その決定的な瞬間には、残念ながら間に合わなかったらしい。
だが館長は、すぐさま話題を近くの生きものへとずらした。
「でもインスタグラムで紹介していたいい動画があるので見てもらいましょう。そしてこのの上に、アナホリフクロウです、生きています。お客様もよく写真撮られますね。」

トイレ案内サインの上を自分の定位置にしているフクロウ。ニフレルでは生きものたちが思い思いに過ごしている。—Journal-ONE撮影
視線の先には、トイレの案内プレートの上を我が物顔で定位置に選んだフクロウの姿があった。天下の公共サインの上でうたた寝を決め込む、その図々しいまでの寛ぎっぷりに、思わず声を出さずに笑ってしまう。
「寝て……本当だ」
西前さんも覗き込みながら小さく笑う。
生きものたちは、こちらの取材の都合も見せ場の予定もお構いなしに、ただ自分たちの気の向くままに眠りたい場所で眠っている。その屈託のなさが、なんだかやけに可笑しい。
気を取り直したように、西前さんが改めて木組みの奥、閉ざされた小さな四角い扉を指し示した。
「出勤の様子は、左側の四角い扉から……ちょうど今あそこで寝てますけど、ワオキツネザルたちが出てくるんです」
指し示されたその扉の向こうで、当のワオキツネザルたちは、身を寄せ合ってお団子のように固まり、とろんと目を緩めて微睡んでいた。特徴的なシマシマの長い尻尾を何本もだらりと下へ垂らし、朝の元気な出勤風景など知る由もない、という顔で。

出勤シーンには間に合わなかったが、ワオキツネザルたちは身を寄せ合いながら気持ちよさそうに微睡んでいた。—Journal-ONE撮影
見られなかった朝の躍動を、西前さんの言葉から思い描く。柵も網もない至近距離で今まさに眠っている姿と、まだ見ぬ朝の姿。そのふたつの間を行き来しながら、私はふと思う。完璧に用意された見せ場に出会えることよりも、案内人自身がうっかり忘れ、慌てて取り繕おうとするこの人間くさい時間の方が、よほど「感性にふれる」というこの場所のコンセプトに近いのかもしれない、と。













