東寺、静寂の思想
梅雨明け前の京都駅
前日入りしたのは、7月8日の昼過ぎだった。京都駅の改札を抜けると、七月の湿った空気に包まれる。じわじわと汗が滲み出してくる、そんな京都の夏の始まりだった。

立体曼荼羅への道

翌日訪れるアートコレクティブ「チームラボ」による『チームラボ』を、より深く読み解くための布石として、まず向かったのは東寺だった。真言宗の根本道場として1200年以上の歴史を刻むこの寺院で、なにより見ておきたかったのが、講堂に安置された立体曼荼羅である。
山門をくぐった瞬間、外の喧噪がふっと遠のいた。空海が、肉眼では捉えられない密教の宇宙観を、21体の仏像という物質の配置によって民衆に示そうとした試み——講堂の薄闇に仏たちが居並ぶという、その光景をまぶたの裏に思い描きながら、五重塔を見上げる。そこに込められた思想の重みを、あらためて噛みしめた。

光の宇宙へ、一夜明けて
梅雨明けの朝
そして迎えた7月9日。前日、近畿地方に梅雨明けが発表されたばかりだった。ホテルを出た瞬間、雲ひとつない空から突き刺すような日差しが降り注ぎ、昨日までとは明らかに質の違う夏が、そこにあった。
存在の宇宙、認識の宇宙

2025年10月7日、東寺からもさほど遠くない場所に、チームラボ バイオヴォルテックス 京都は始まった。延べ約10,000平方メートル、国内最大規模を誇るこのミュージアムを貫くコンセプトが、「存在の宇宙、認識の宇宙」である。
前日の東寺が物質によって宇宙を可視化したとするならば、ここでは光と環境、そして鑑賞者自身の認識という現象によって、まったく新しい宇宙が立ち上がる。時代も手法もまるで異なるふたつの場所が、「空間そのものを使って人間の認知を超える世界を可視化しようとした」という一点で、静かに地続きになっている——そんな見立てを、道すがら温めていた。
そんな思索を抱えたまま迎えたこの日、ミュージアムはもうひとつの節目を迎えようとしていた。開館からわずか9ヶ月、来館者数が100万人を突破しようとしていたのである。

100万人目の、はにかんだ横顔
9ヶ月というスピード
100万人突破は、7月6日(月)に達成された。オープンから遡ってわずか9ヶ月という速さである。館内で肌感覚として実感したのは、来館者に占める訪日外国人の割合の高さだった。
数字で見ると、その比率は約42%。国・地域の数にして150以上にのぼるという。しかも外国人来館者の約半数は、アメリカ・フランス・イギリス・ドイツなど、決して近いとは言えない国々からの訪問だ。訪日外国人の約3割が、来日30日以上前からチケットを確保していたという事実も、このミュージアムがすでに「京都で外せない目的地」として国際的に認知されていることを物語る。
平均滞在時間は2時間半以上、館内に広がる作品群は50を超える——その規模と滞在時間の長さもまた、単なる立ち寄りスポットではなく、旅程の核として選ばれている証だろう。
二人の20日間

100万人目の栄誉に浴したのは、中東地域から来日した10代の姉妹、KatyaさんとAnastasiaさんだった。取材陣とチームラボメンバーに囲まれながら、二人は少し驚いた様子で祝福を受けていた。
3年間、日本行きを夢見て働いてきたという二人。神奈川・大阪をすでに巡り、これから東京・名古屋・地方都市へと旅を続けるという、20日間の長旅の途上にある。その労苦を思うと、なるほど、と頷かずにはいられなかった。
光の線が描く、現実離れした美

美術学校でアートを学んでいるという二人が、最も印象に残った作品として挙げたのは《Infinite Crystal World》だった。「光が線となり描かれる作品が特に印象に残っており、現実離れした美しさを感じました」とKatyaさん。
Anastasiaさんは、日本旅行を計画する段階からSNSでこのミュージアムを見つけ、訪問先として心に留めていたと明かしたうえで、「身体も心も丸ごと没入するような体験は、期待以上のものでした」と語った。感激のあまり何か言いかけては、あわてて言葉を呑み込む——そんな仕草が、二人の間で何度か繰り返された。
クレヨンという贈り物

記念品として贈られたのは、チームラボ公式グッズ「色の名前のないクレヨン:BOX5本セット」。使い切れず短くなったクレヨンを再利用してつくられたこのクレヨンは、館内の《スケッチオーシャン》や《グラフィティネイチャー》といった作品でも実際に使用されているものだ。
「アートを学んでいる私たちにぴったりのプレゼント」とAnastasiaさんは、箱を両手でそっと抱きかかえるようにして声を弾ませた。絵を描くことで完成する作品を後にして、絵を描くための道具を手にする——その巡り合わせに、このミュージアムらしさを見た気がした。













