旭山動物園は、日本を代表する動物園として広く知られ、とりわけ「行動展示」という革新的な展示手法で全国的な注目を集めてきた。北海道・旭川市に位置し、動物本来の姿を見せる展示スタイルは、いまや全国の動物園の指標となっている。
しかし、園長の中田真一さんと園内を歩きながら見えてきたのは、行動展示という言葉だけでは捉えきれない旭山動物園の本質だった。
動物の生態を見せる仕組み以上に、動物と人間の距離をどう縮めるか、命の営みをどう伝えるかという、園が長年積み重ねてきた思想が随所に息づいている。
ペンギンの散歩、ホッキョクグマのもぐもぐタイム、アザラシが泳ぐマリンウェイ。そのすべては来園者を楽しませるために生まれたものではない。動物たちが本来持つ能力や習性を発揮できる環境を整えた結果として生まれたものだった。
全国の動物園に大きな影響を与えた展示の裏側と、職員たちの手作り文化。その源流には、旭山動物園が長年守り続けてきた「動物ファースト」の考え方があった。

旭山動物園のペンギンたち-Journal-ONE撮影
旭川市旭山動物園 園長・中田真一さん
今回、園内を案内してくれたのは旭山動物園の園長を務める中田真一さん。長年にわたり飼育員としてペンギンやアザラシなどの飼育に携わり、旭山動物園を代表する展示づくりや日々の飼育現場を支えてきた。現在は園長として、動物たちが本来持つ能力や習性を来園者に伝える旭山動物園の理念を受け継いでいる。
取材中も動物たちに向けるまなざしは終始温かく、ときに現場時代の苦労話を交えながら展示の裏側を語ってくれた。その話から見えてきたのは、「行動展示」で知られる旭山動物園の本質が、派手な仕掛けではなく、動物たちを最優先に考える“動物ファースト”の姿勢にあるということだった。

レッサーパンダが頭上を歩く獣舎-Journal-ONE撮影
旭山動物園の「行動展示」は後から付いた名前だった
旭山動物園が大切にしてきたのは動物ファースト
「実は“行動展示”という言葉は、元々あったものではないんです」。
そう話す中田園長は少し笑った。
旭山動物園を象徴する言葉として全国に広まった「行動展示」。しかし、その呼び名は後にマスコミによるつぶやきだったという。
「当時の小菅正夫園長と職員たちは、そんな呼び方を考えていたわけではありません。単純に『こんな施設をつくったら、動物たちはこう動いてくれるのではないか』と考えながら展示をつくっていました」。
ただし、それは決して成功が保証された挑戦ではなかった。施設を整えても、動物たちが人間の想像通りに行動してくれるとは限らない。
「確信なんてありませんでしたね」。
そう振り返る中田園長の言葉からは、現在では全国に広がった展示手法が、現場の試行錯誤の中から生まれたことが伝わってくる。
しかしその根底にあったのは、動物を見せることではない。動物たちが本来持つ能力や習性を発揮できる環境を整えること。それこそが旭山動物園の原点なのである。

最も新しいマヌルネコの獣舎も必見だ-Journal-ONE撮影
旭山動物園が目指すのは種族への理解
中田園長は、旭山動物園が目指しているのは人気動物をつくることではないと話す。
来園者に知ってほしいのは、一頭や一羽の動物ではなく、その種が持つ特徴や生き方だ。
かわいい、すごい、面白い。
そんな感情は入口に過ぎない。
そういった感情をきっかけに、そこから先にある「なぜそう生きているのか」まで知ってもらうことが、旭山動物園の願いだという。
園内を歩いていると、その考え方は展示施設だけでなく、解説パネルやイベント、職員たちの言葉にまで一貫して息づいていることに気付かされる。

解説を読むとよりどの動物に興味が湧く-Journal-ONE撮影
旭山動物園のぺんぎん館で見る、本来の能力
水中トンネルで知るペンギンの姿
ぺんぎん館の水中トンネルに立つと、ペンギンたちが頭上を勢いよく泳ぎ抜けていく。
陸上をよちよちと歩く姿からは想像できないほど速く、そして美しい。
まるで鳥が空を飛ぶようだった。
「ペンギンは泳ぐために進化した鳥なんです」。


-
旭山動物園
- 旭川空港 - 旭川空港線バス(37分)- 旭川駅 - 旭川電気鉄道バス(39分)- 旭山動物園停留所すぐ
- 取材・文:
- 編集部-矢澤( 日本 )













