中田園長の説明を聞くと、その姿がより魅力的に見えてくる。
陸上では愛らしい存在として映るペンギンも、水中では野生動物としての能力を存分に発揮する。
旭山動物園が見せたいのは、まさにその姿だ。
かわいらしさだけではなく、生き物としての力強さ。その本質に触れられるのが、この展示の魅力なのである。

“空飛ぶペンギン”が見られる水中トンネル-Journal-ONE撮影
旭山動物園のペンギンに名前がない理由
積雪期になると、ぺんぎん館では名物の「ペンギンの散歩」が行われる。
コースの両側には多くの来園者が並び、その間をペンギンたちが歩いていく。
しかし、この取り組みの出発点は観光イベントではなかった。
「もともとは冬場の運動不足解消が目的だったんです」。
中田園長はそう説明する。
よく「行儀よくまっすぐ歩きますね。」と言われるそうだが、これについても園長は笑いながら答える。
「両側に人間が並んでいれば、ペンギンはそちらには行きません。お客様が柵の役割をしてくれているんですよ」。
さらに興味深かったのは、旭山動物園のペンギンには名前がないということだ。
「私たちは個々の動物を愛玩するのではなく、種族全体を好きになってほしいと考えているので名前は付けません」。
もちろん飼育上は個体識別が必要になる。そこで使われているのが羽に付けられたカラーバンドだ。
「実はあの色と番号、競馬と同じ仕組みなんです」。
聞けば、当時の担当飼育員が競馬好きだったことから採用された方法だという。今ではすっかり定着し、職員たちは色と番号で個体を管理している。
人気者を作るのではなく、ペンギンという生き物そのものを知ってほしい。その考え方は、名前を付けないという選択にも表れていた。

ぺんぎん館の前で話す中田園長-Journal-ONE撮影
旭山動物園のあざらし館は挑戦から生まれた
マリンウェイ誕生秘話
あざらし館の象徴といえば、透明な円柱水槽「マリンウェイ」だ。
現在では全国の動物園や水族館で似た発想の展示を見ることができるが、その原点は旭山動物園にある。しかし、その成功は決して約束されていなかった。
それでも導入したのは、アザラシが本来持つ上下移動の能力を伝えたいという思いがあったからだ。人間に見せるための仕掛けではない。アザラシらしく暮らせる環境を整えた結果として、あの姿が生まれたのである。
「オープンの日、私は坂東さんと一緒に後ろで見ていたんです」。
中田園長は当時を懐かしそうに振り返る。
アザラシたちは新しい施設に戸惑っているようにも見えた。本当に筒の中を泳いでくれるのか。職員たちが見守る中、しばらくして若いアザラシが円柱へ入り、そのまま上へと泳ぎ上がった。
「その時は本当に安心しましたね」。
今では当たり前の光景となったマリンウェイにも、そんな緊張の瞬間があったのである。

旭山動物園 象徴的な行動展示であるマリンウェイ-Journal-ONE撮影
旭山動物園のほっきょくぐま館で学ぶ北極の生態
もぐもぐタイムが教えてくれること
ほっきょくぐま館では、ホッキョクグマの「もぐもぐタイム」に多くの来園者が集まる。
多くの人はホッキョクグマがアザラシを捕らえる姿を想像する。しかし中田園長はこう話す。
「アザラシを狩る姿は有名ですが、あれは氷が張る冬だからこそ見られる行動なんですよ」。
この日、ホッキョクグマが食べていたのはホッケだった。
もぐもぐタイムに合わせて、飼育員の解説が始まる。
「見ての通りホッキョクグマは泳げますが、決して速く泳げるわけではありません。冬になると氷の割れ目から息継ぎのために顔を出したアザラシを待ち伏せして捕まえます」。
さらに続く。
「ホッキョクグマがアザラシを狙う理由は、肉を食べるためというより脂肪を摂取するためです。脂肪を体内に蓄えることで、厳しい北極の冬を生き抜いているんです」。
来園者たちは熱心に耳を傾けながら、ホッキョクグマの食事風景を見つめていた。展示を見るだけでは分からない生態が、実際の行動とともに伝わってくる。
「こうして見ながら知っていただくことが大切なんです」。
中田園長は穏やかに話す。
「その結果として、本当に好きな動物を見つけてもらえたら嬉しいですね」。
そう語る中田園長の視線の先には、ゆっくりとホッケを味わうホッキョクグマの姿があった。

ホッケをたべるホッキョクグマ-Journal-ONE撮影














