手作り看板に知られざる秘密がある
ほっきょくぐま館を歩いていると、もう一つ気になるものがある。それが職員たちによる手作り看板だ。
館内には「真水で飼育しています」という掲示がある。海の動物なのだから海水が必要だと思っていたが、中田園長はこう説明する。
「彼らは私たちと同じ哺乳類や鳥類で肺呼吸をする生き物です。ですから海水でなくても問題ありません」。
さらに旭川は内陸部でもある。
「海水を使うとコストもかかりますし、施設の劣化や清掃の負担も増えるんです」。
こうした知られざる秘密を知ると、旭山動物園がもっと好きになるはずだ。

真水で掃除をする飼育員さんを見つめるペンギン-Journal-ONE撮影
旭山動物園に息づく、職員たちの創造力
根付く職員発案の展示文化
また、園内には等身大パネルも数多く設置されている。ホッキョクグマのパネルの前に立つと、その大きさに改めて驚かされる。
「せっかく来たのだから、本当の大きさを体感してほしいんです」。
こうしたアイデアは職員たちから自然に出てくるという。春の閉園期間になると、コンパネを買い、ノコギリで切り、ペイントする。
来園者にもっと伝えたい。そんな気持ちが形になっている。

手作りの実物大パネルを前に中田園長-Journal-ONE撮影
旭山動物園に息づく“画伯たち”の文化
さらに館内には職員たちが描いた水彩画も飾られている。
「これも、お金がなかったから始まったものなんです」。
中田園長は照れ笑いを浮かべながら一枚の絵を指さした。よく見ると、作者名に中田真一の名前がある。
「旭山動物園の季刊誌「モユク・カムイ」の表紙絵を誰が描く?となりオーディションがありましてね。絵なんて描いたことがなかったんですが、描いて出したら受かってしまったんです」。
若い頃はドラマーとして活動していた中田園長。「アーティスト気質が絵にも出たのでは?」と尋ねると、
「そんなことを言われたのは初めてですよ」。
と大笑いした。
そういえば、取材でいただいた名刺にもペンギンの絵が描かれていた。聞けば、それも中田園長自身が描いたパステル画だという。
職員が作る看板、等身大パネル、そして動物画。旭山動物園には、動物たちをもっと知ってほしいという職員たちの思いが至る所にあふれていた。

園内には中田園長の水彩画が掲出されている-Journal-ONE撮影
旭山動物園のもぐもぐタイムは“ショー”ではない
もぐもぐタイムは動物ファーストから始まった
旭山動物園を訪れると、園内のボードに書かれた「もぐもぐタイム」の案内が目に入る。現在では旭山動物園の名物として知られ、多くの来園者がその時間を目当てに集まる。
しかし中田園長によると、その始まりは来園者向けのショーではなかったという。
「時間や回数も、その日の動物の体調に合わせて各飼育担当者が決めています」。
実際にボードを見てみると、動物によって時間はまちまちだ。回数も違えば、実施される場所も異なる。
一般的なショーであれば、人間の都合でスケジュールが組まれる。しかし旭山動物園では違う。まず動物たちの生活があり、その結果として来園者が見学できる時間が決まる。
その考え方は、旭山動物園が創設以来守り続けてきた動物ファーストの姿勢そのものだった。
中田園長は振り返る。
「以前は『旭山動物園の飼育係は目立ちたがり屋が多い。』なんて言われたこともありました」。
確かに、マイクやインカムを付けて来園者へ説明する姿。それだけを見ると、水族館やテーマパークのショーを連想する人もいるだろう。
しかし、ここで行われているのは本来の行動を見せるための時間だ。動物たちに特別な芸を覚えさせることもなければ、人間のために行動を強制することもない。
生きるために食べる。その姿を見てもらうことこそが、もぐもぐタイムの本質なのである。

もぐもぐタイムで飼育員さんを見つめるアザラシ-Journal-ONE撮影
アザラシの行動から学ぶ生き物の知恵
あざらし館のもぐもぐタイムでは、その考え方がよく分かる場面に出会った。
飼育員が魚を手に取り、
「アザラシは必ず魚を頭から丸呑みします」。
と説明する。
そう言って魚の尻尾側をアザラシへ向けて投げた。














