日本酒だけでなく、北海道産ワイン、クラフトビール、季節のカクテルも揃う。「夜は、料理だけじゃなくて、景色とお酒をゆっくり楽しんでほしいんです。」と佐々木さん。グラスを傾けるたびに、窓の外の夜景が少しずつ深みを増していく。旅の終わりに、あるいは旅の途中に。旭川の夜を静かに味わうには、MINORIほどふさわしい場所はない。

バーカウンターの前で佐々木さん‐Journal-ONE撮影
アートホテル旭川の北海道ブラッスリー リラ―素材の温度が伝わる時間
ロビー階の「北海道ブラッスリー リラ」は、北海道の素材を、やさしい時間とともに楽しめるカフェ。アートホテル旭川のもう一つの心臓部といえるだろう。毎朝ホテル内の厨房で焼き上げるパンの香りが漂い、旭川焙煎のコーヒーが湯気を立てる。ここでスイーツを手がけるのは、製菓料理長の北口幸平さん。
北口さんは、パリ五輪で金メダルを獲得した陸上女子やり投げ・北口榛花選手の父としても知られる。榛花選手が子どものころから大好きだったプリンは、今もリラの定番として提供されている。「北口家昔ながらのカスタードプリン」と名付けられ、北口家の味をそのまま楽しめるという。
札幌、新潟で修業を積み、2000年に旭川へ移った北口さん。それゆえ、フランス菓子の定番を北海道の素材でアレンジするスタイルを大切にしている。オペラ、エクレア、ガトーサンマルクなど、伝統的な菓子に北海道の乳製品や地元の果物を合わせることで、土地の温度が立ち上がる。「国内外の方に、北海道の“今”を味わっていただきたい。」その言葉どおり、リラのスイーツはどれも素材の香り・温度・質感が繊細に立ち上がる。

アートホテル旭川1階にある北海道ブラッスリー リラ-Journal-ONE撮影
エクレア―香ばしさとクリームの濃厚さが舌の上でほどける
まずは、リラのエクレアで、北口さんが修業時代から大切にしてきた“定番の美学”を堪能できる。シュー生地は焼き上げた瞬間にふわりと香ばしい香りが立ち上がり、指でそっと押すと軽やかに弾む。中には、北海道産の牛乳とバターを使った濃厚クリームがたっぷり詰まっている。
ひと口かじると、シュー生地の香ばしさとクリームのコクが舌の上で重なり、ゆっくりとほどけていく。甘さは控えめで、クリームの乳脂肪のコクが静かに広がる。「定番をきちんと作ることが一番難しいんです。」と北口さん。シンプルな菓子だからこそ、素材の質と技術の正確さがそのまま味に反映される。

榛(はしばみ)のエクレア‐Journal-ONE撮影
上面の仕上げで振られた粉糖が、旭川の冬を想起させる。ヘーゼルナッツの食感と豊かな香りも相性が抜群だ。旭川焙煎のコーヒーと合わせると、香ばしさと苦味がクリームの甘さを引き締め、味わいに奥行きが生まれる。リラのエクレアは、北海道の素材とフランス菓子の技術が美しく重なる、北口さんの哲学そのものだ。
ショートケーキ―クリームの“溶け方”まで美しい
つぎに、リラのショートケーキで、北海道の素材の良さを最もストレートに感じる。特筆すべきは、クリームのなめらかさだ。スプーンですくうと、クリームは空気を含んだように軽く、舌に触れた瞬間にすっと溶ける。甘さは控えめで、乳脂肪のコクが静かに広がる。クリームの口どけは、その“速度”を計算したかのように絶妙に作られている。
スポンジは、きめが驚くほど細かく、しっとりとした質感。指で触れると、ふわりと空気を含んだ柔らかさが伝わる。丁寧にスライスされた苺が層の間に美しく挟まれ、甘酸っぱさがクリームとスポンジの間でやさしく広がる。苺は季節によって産地を変え、夏は道内の甘みの強い品種、冬は酸味のある品種を使い分ける。
見た目はシンプルだが、素材の力と職人の技術が織り成す“北海道らしいショートケーキ”である。ひと口食べると、北海道の空気がふわりと立ち上がるような、やさしい甘さが広がる。

ショートケーキはホールでの販売も‐Journal-ONE撮影
アートホテル旭川で出会う、北口家のプリンという“家族の味”
そして、娘・北口榛花選手が子どものころから大好きだった“家族の味”・北口家のプリンは外せない。スプーンを入れるとゆっくりと形を保ちながら崩れ、卵のコクとミルクの甘さがやさしく広がる。ほろ苦いカラメルが全体を引き締め、甘さとのバランスが絶妙だ。













